トップ > 十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第17回言葉によるコミュニケーションが苦手なJくん

子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。子どもの「できない」ことに目を向けるのではなく、今「できている」ことに注目してみることが肝心です。
このシリーズでは、子育ての中で思わず「あるある!」と感じる、子どもたちのいろんな行動について、周りの大人はどのように寄り添えばいいのか、紹介していきます。気軽に読んでみてください。

 

Jくんは年少から入園しましたが、入退院を繰り返していることもあり、年長になった当初も母子分離が難しく、大人がそばを離れると不安で泣いてしまっていました。内言語が豊かでいろいろなことに意欲的ですが、言葉によるコミュニケーションが難しく、指さしやうなずき、表情、発声で応じています。母親はJくんの言いたいことを理解できますが、保育者はJくんが伝えたい想いをくみ取ることができないことがありました。保育者は、Jくんの気持ちを受け止める方法を考えつつ、友だちの中で園生活を楽しんでほしいという願いもありました。
 
 ある日、お弁当を食べながら、保育者が「今日、何して遊んだの?」と子どもたちと話をしていると、Jくんはほかのグループの子を指さし一生懸命に何かを伝えようとしてきました。お弁当の時間でみんなが落ち着いていたので保育者にもゆとりがあり、Jくんのサインを受け止めることができました。これまでJくんの想いをうまく受け止められず、互いにもどかしさがありましたが、Jくんの言いたいことに初めて気がつくことができ、保育者として嬉しくてたまらない出来事でした。
 
 このことがきっかけとなり、どうしたらJくんがみんなに気持ちを伝えられるだろう、本当は何がしたいのだろう、友だちにそれを伝えて一緒にできることはないだろうかと考えはじめたのです。
 
 まず保育者は、Jくんが友だちの名前を呼びかけたら相手の子も嬉しいのではと考えました。名前にあたる手話をみんな覚えることは難しいので、簡単なその子らしい「サイン」をJくんの前で1人ずつ相談をしました。自分の好きな動物や食べ物などを決め、1枚の紙にそれぞれが絵を描いてみんなに紹介していき、その子の名前にあたる「サイン」が決まりました。また、みんなのかかわるきっかけになってほしいと、保育者が「身近な気持ちを伝える手話」をクラスのみんなに紹介すると、手話で想いを表現し合い、仲間との一体感も感じられるようになりました。保育者が仲介役となり、クラスの仲間と結びつけいろいろな遊びをすることができ、仲間と過ごしたい、一緒に活動したいというJくんの想いは満たされました。互いに伝わる嬉しさはさらにJくんを意欲的な園生活への取り組みへと結びついていきました。
 
 コミュニケーション方法は言葉だけではないのです。手話だったり、ボディランゲージだったり、絵や文字だったり、様々なものがあります。コミュニケーション手段として手話を導入したことで、クラスの仲間が手話を覚え、Jくんと仲間が手話で会話できるようになり、互いに意思の疎通ができるようになりました。その子に合った方法をみつけてあげられると、仲間1人ひとりとかかわり、コミュニケーションの楽しさを経験することができますね。

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