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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第35回二つのどうぶつ王国

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。

 

今回ご紹介する動物:ハヤブサ・ハクトウワシ・ヨウム・アカカワイノシシ・アメリカバク・ジャガー・オニオオハシ・アカハシコサイチョウ・ハシビロコウ・クーガー・オグロプレーリードッグ・アメリカビーバー・シマスカンク・アメリカアカリス・クビワペッカリー・シンリンオオカミ・アメリカクロクマ

 

訪ねた動物園:那須どうぶつ王国・神戸どうぶつ王国
 

※1. 以下、那須どうぶつ王国については2018/3/23のウェットランド内覧会と2018/4/23~24の取材時、神戸どうぶつ王国は2018/4/3~4の取材時に撮影されました。また二園のそれぞれに多様な動物たちを展示する施設の御紹介のため、展示種の一部のみの掲載となっています。なお、記事中にあるドローンは現在メンテナンスのため、お休みしております。再開は夏7/14~をめどに予定しております。
 

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山腹に広がる草原、六基のプロペラを備えた長距離輸送対応のドローンが上がっていきます。吊るされているのは猛禽トレーニング用のルアー(疑似餌)。
 

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高速ながらに小回りの利く飛行で迫り、見事にルアーを仕留める影。
 

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急降下のスピードならば時速300kmを超えるともいわれるハヤブサ、この日(2018/4/23)お披露目となった那須どうぶつ王国の新たな目玉です。ドローンを使うことで地上からおよそ150m、他の鳥を襲うハヤブサの妙技を目の当たりにすることが出来ます。
 

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彼方から飛び来る大いなる翼。ハクトウワシの雄大さを実感できるのも、開けた景観ならではのことです。
那須どうぶつ王国はきわめてユニークな動物園です。オーソドックスな郊外型動物園とも自動車社会の申し子であるサファリパークとも異なり、大型動物・花形動物を強く推し出したり動物コレクションの規模や珍奇さを誇ったりする道も取っていません(※2)。ゆったりとした立地を活かして広いパフォーマンス・スペースを確保し、高いトレーニング技術でそれぞれの動物ならではの能力を引き出すことで類まれな魅力を生んでいるのです。
 
※2.サファリパークについては以下の記事を御覧ください。
「サファリパークの歩き方」
 

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「お名前は?」
「オリビア!」
こちらもトレーニングの賜物です。ヨウムのオリビアは那須どうぶつ王国のバードパフォーマンスショー・フリーフライトブロードのスターです。ヨウムは賢い鳥で人にもよくなつきます。
 

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ヨウムの能力には動物種としての根拠があります。発達した脳だけでなく、野生では群れをつくる高い社会性を持っています。オリビアの活躍の向こうにはヨウムを生み出した環境の広がりと進化の歴史があるのです。
しかし、このような動物であるがゆえにペット販売目的での密猟が続き、かれらの絶滅も危惧されています。那須どうぶつ王国はこうした状況をも的確に伝えようと努めています。動物園はそこで飼育展示する動物の全容を伝え、訪れるわたしたちが動物と向き合って、かれらとの関係を考える機会となるという大切な役割を担っているのです。
 

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ヨウムの啓発ポスターが掲げられているのは園内のレストラン・ヤマネコテラスです。ここでは日本で最も絶滅に瀕している野生動物とされるツシマヤマネコの現状を伝え、その保全に貢献することがテーマとなっています。現地・対馬でヤマネコと共存できる環境を守りながら営まれている農業の産物である佐護ツシマヤマネコ米を全面使用しており、それは同米の年間生産量のおよそ一割となっています。さまざまなヤマネコ関連グッズも揃っていますが、やはりヤマネコ米が一番人気とのことです。
 

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数量限定のヤマネコランチのパンもヤマネコ米の米粉を使っています。よく見るとウッドプレートもヤマネコを模しています。
 

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そんな第三の郊外型動物園・那須どうぶつ王国にこの春新たな施設がオープンしました。水辺や湿地の動物たちをフィーチャーした屋内展示・ウェットランドです。踏み入れば那須高原は一転して熱帯の只中。
 

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アフリカ産のアカカワイノシシ。体が赤い、河のイノシシです。ここで暮らすのはなかよし姉妹。
 

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南アメリカ産のアメリカバク。上唇が伸びて鼻の孔と一体化しているのはゾウと同じですが、給餌の際にはそんな特徴も生き生きと観察できます。
 

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バクのためのプールはまだ使用頻度は高くないようですが、今後、飼育的な運用の中で適正化されていくことでしょう。ウェットランドは進化の途上です。
 

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見上げればジャガー。
 

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南アメリカ最大の肉食獣であるジャガーは樹上で休息したり獲物を待ち伏せしたりします(※3)。このオス・ソル(スペイン語で太陽)は二歳過ぎですが、既に一人前のハンターの風格を醸しています。
 
※3.ちなみに南アメリカ最大の陸生哺乳類はアメリカバクです。
 

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大あくびのメス・ルナ(スペイン語で月)。ソルよりひとつ年下で、まだまだ遊び好きのお嬢さんという感じですが、ネコ科ならではの獲物を突き刺す槍のような牙や肉を噛み切るナイフのような奥歯が見て取れます(※4)。
 
※4.ジャガーの間近に迫るこの展示では、かれら独特の毛皮の文様もつぶさに見ることが出来ます。これについてはこちらの記事を御覧ください。
「ジャガーをめぐる色模様」
 

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野生のジャガーは積極的に水に入ることが知られています。ルナの場合は飼育スタッフが投げ入れた肉におそるおそるアプローチする練習中というところですが、野生のジャガーも子供の頃にはこうして少しずついろいろな知恵や技法を学んでいるのでしょう。
 

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ルナよりもひと足先におとなになっている観のあるソルですが、隣同士こんな光景に出逢うこともあります。ジャガーは単独生活者ですが、ソルの優しさは将来のペアリングに向けて、よい効果を上げてくれるでしょう。
 

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こちらも年上のオスに甘えるようなオニオオハシの若いメス。かれらにはオスがメスに食物をプレゼントする習性がありますが、ここでの睦み合いにもそんなベースがあるのかもしれません。
 

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オニオオハシたち、特にオスはしばしば巣箱に潜ります。巣箱の中には飼育スタッフによっておが屑が詰め込まれていますが、それを適宜取り出して捨てる行動が観察されます。この行動が巣づくり~繁殖につながることが期待されています。
 

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木の下に降り積もるおが屑は飼育スタッフ泣かせでもあるのですが。
 

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こちらはアフリカ産のアカハシコサイチョウです。こちらも繁殖を意識した飼育展示が行われていますが、くちばしにくわえた枝は遊びのつもりか、巣づくりの想いの芽生えなのか。まずは見守っていきましょう。
 

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水辺で魚を待ち伏せるため、動かない鳥と言われるハシビロコウですが、ウェットランドでは時に園路にも進出です。
 

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手前がオス、奥がメス。ハシビロコウは自分の行動圏に敏感で、それぞれに距離を採っているのが普通です。
 

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不意のオスの飛来に警戒と威嚇のそぶりのメス。しかし、ふと様子を窺うようなまなざしも見せます。この二羽の間でこのような接近が見られるのは最近であるとのことです。ハシビロコウの飼育下繁殖はきわめて難しく、世界的にも二例ほどしか成功していません。
 
ウェットランドでは餌などの日々の飼育に配慮するとともに、環境をコントロールできる屋内施設の強みを活かし、ホースのシャワーで繁殖の促しになるという雨季を演出するなどの工夫を積み重ねています。それら自体が貴重な知見になるとともに、この先に期待が高まります。
 

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そんなウェットランドは今夏に向けて、さらに拡張リニューアルの予定です。
 

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ウェットランドと一脈通うかとも思われる屋内施設。しかし、ここは那須どうぶつ王国ではありません。姉妹園の神戸どうぶつ王国です。神戸どうぶつ王国は、2014/7に前身の神戸花鳥園から運営母体も一新されて生まれ変わりましたが、同園でもこの春に新たな展示がオープンしました。北アメリカの動物たちによる「ロッキーバレー」です。
 

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間近に見るクーガー(ピューマ)に注目の来園者ですが(※5)、クーガーのまなざしの先には……。タイミングによってはこのようにオグロプレーリードッグとの通景になっていることもあります。
 
※5.動物たちとの距離を近づけてくれるガラス展示ですが、前に立つわたしたち自身が映り込んで、撮影などに難儀することもあります。神戸どうぶつ王国ではガラスの角度を調整して、出来るだけトラブルを防ぐ工夫をしています。
 

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那須どうぶつ王国と同じく、こんな給餌装置も設けられています。落ちてくる肉片にも熱いまなざし。
 

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クーガーは夕刻になると活発になります。特に子どもにはよく反応するようですが、その胸中や如何に?
ちなみに、クーガーの展示場全体はクーガーウォークと名づけられ、岩場~森の中までの推移を意識してデザインされています。
 

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ふと見上げると天井の一角には紫外線灯が。環境コントロールの利便性を持つ屋内展示ですが、同時にこのような配慮によって動物たちの健やかな生活が図られています。既に触れたように温室による花鳥園を基としている神戸どうぶつ王国。そんな基礎を踏まえつつ意欲的な刷新を遂げてきた屋内型の飼育展示の試みが、那須どうぶつ王国での屋内展示の展開にもフィードバックしているのです。
 

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ビーバークリーク、アメリカビーバーも北アメリカを代表する動物です。展示を周回しながら観覧できる構造は、ふとかれらの野生の日常を垣間見ているような感覚にもさせてくれます。
 

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小柄とはいえ、水の中の動きはダイナミックです。
 

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こちらはシマスカンク。かたまりあって休息していることが多いのですが、時折、こんな瞳に出逢えたりもします。
 

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樹上と林床。
 

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アメリカアカリスはペアで暮らしています。
 

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かたやクビワペッカリー。一見イノシシそのものですが、背中に分泌腺を持つなどの特徴があります。アメリカ大陸で独自の進化を遂げてきた動物なのです。
 

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こちらの展示はイーグルネストです。那須どうぶつ王国では雄大なフライトを披露していたハクトウワシですが、ロッキーバレーの一角では、生息地のありさまに近い姿が観察できます。
 

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ハクトウワシは魚食者です。この個体も時折、現地調達しているようです。
 

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いくつもの展示の複合から成るロッキーバレーですが、いまの一番人気はこのウルフクリークと言ってよいでしょう。三頭のシンリンオオカミが、頭上の飼育スタッフに反応しています。
 

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投入される、おやつの鹿骨。水中に落ちたものも豪快に回収します。この三頭は名古屋の東山動物園から来ましたが、群れで生まれ育ち、飼い馴れされてわたしたちの生活に溶け込んだイヌとは一味も二味も違う野生のありようを感じさせてくれます。
 

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ベアーキャニオン。アメリカクロクマは黒熊と呼ばれながらも、しばしば蜂蜜色の個体が見られます。熊のプーさんやテディベアのモデルも、このクマです。姉妹個体ののんびりとした日常を覗かせてもらいましょう。
 

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滝のある谷間をデザインした運動場では、擬木につくられた裂け目に餌を仕込んで、それを取り出すクマの器用さや知能を展示することも行われています。
 

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大きな温室ならではのバードショーも楽しめます。
 
それぞれの立地や特性を活かして魅力を展開する、二つのどうぶつ王国。姉妹園ならではのキャッチボールがその進化をさらに豊かにしています。これからも折々に比べ合わせ、楽しく学んでいきたい二園です。
 
動物園に行きましょう。
 
(※6)神戸どうぶつ王国では4/6に熱帯アジアの森に棲むユニークなジャコウネコ類・ビントロングの繁殖に成功しました。詳しくは下掲リンクを御覧ください。
神戸どうぶつ王国
ここでも那須どうぶつ王国とのキャッチボールが有効に働いています。こちらの記事もご覧ください。
「ポップコーンのにおいのする熊狸」
 

 

☆今回取材した園

 

那須どうぶつ王国
 
神戸どうぶつ王国

 
写真提供:森由民

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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。