トップ > ZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第36回古代湖・固有種・地域の自然

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。

 

今回ご紹介する動物:バイカルアザラシ・アカントガンマルス ビクトリイ(バイカルヨコエビの一種)・ジェルトクルィラーヤシロコロブカ・ボリシャーヤシロコロブカ(以上2種はバイカル湖固有のカジカ類)・タンガニーカ湖およびマラウィ湖のシクリッド類・オームリ(バイカル湖のサケ科魚類)・ニゴロブナ・ビワマス・イワトコナマズ・ビワコオオナマズ・ナマズ・カヤネズミ・ワタカ・トキ・スバールバルライチョウ・ホクリクサンショウウオ・ビワヒガイ・トラ

 

訪ねた動物園・水族館:いしかわ動物園・滋賀県立琵琶湖博物館
 

※1.いしかわ動物園は2018/5/24~25、琵琶湖博物館は2018/5/22~23に取材させていただきました。
※2.各園館の公式サイトのほか、下記を参考にしました。
田畑諒一(2018)「琵琶湖固有種のイサザやホンモロコたちは、いつ誕生したのか」滋賀県立琵琶湖博物館『びわはく』創刊号。
 

ishikawa_180524 (690)
ishikawa_180525 (891)
いしかわ動物園のゲートを入ってまもなく、幻想的ともいえる屋内水槽には、ちょっと風変わりなアザラシの姿が。
 

ishikawa_180524 (140)
同園で飼育されているゴマフアザラシと比べてみましょう。かたや照明を抑えた屋内、かたや明るい陽光のなかですが、それだけでなく前者の目玉の大きさが際立ちます。

 

ishikawa_180525 (5)
体も随分ずんぐりしています。
 

ishikawa_180524 (28)_(30)_(32)
その名はバイカルアザラシ。本物のひげを植え込んだハンズオンのおなかの引き出しを開けると、分厚い脂肪層があることがわかります。

 

ishikawa_180524 (35)_(649)
こちらは体毛。取材ということで、ちょうど換毛したばかりの毛も見せていただきました。バイカルアザラシは油が焦げたような独特のにおいがします。
 

ishikawa_180524 (44)
戯れる三頭。オスのバイカルとメスのアーニャ・ターニャは、いずれも2017年生まれ。石川県とロシアのイルクーツク州は友好関係にあり、アザラシたちは同州にあるバイカル湖畔の施設からはるばる来日したのです。まだまだ子どもですが、将来は繁殖にまで至る展開が期待されています。オスは7~10歳、メスは3~7歳で性的に成熟するとされています。
 

ishikawa_180524 (637)_(638)
展示の陸上部分に注目すると、こんな穴が見つかります。いつかメスたちに落ち着いて出産する必要が出来たら、この穴を活かして仕切りをはめ込み、産室スペースをつくることになっています。
 

ishikawa_180524 (45)
そんな子どもたちとは比べものにならない大きな個体。今年34歳になるメスのクリは1984年に、いしかわ動物園の前身・金沢サニーランドにやってきて以来の古参動物です。加齢で目が白濁していますが、住み慣れた水槽で悠然と過ごしています。来園当初、慣れない環境に臆するそぶりがあった三頭の仔アザラシたちも、クリを見習ったのか、いつしか落ち着いていったということです。

 

ishikawa_180525 (874)_(875)
こちらはトレーニングの風景。子どもたちは初期段階で、まずは飼育スタッフの掌に鼻づらでタッチ出来たらOKということで魚がもらえます。プールの水際、三頭の並び順も決まっています(奥からバイカル・アーニャ・ターニャ)。
 

ishikawa_180524 (631)_25(902)_(926)
子どもたちのトレーニングの間、クリは一旦バックヤードに引っ込んでいます。再び戻るとクリのトレーニングです。飼育スタッフや獣医師の間にしっかりとした約束(必要な行動~報酬の魚)が出来ているので、体を調べるのは元より、足の付け根あたりから採血することも出来ます。
子どもたちとの入れ替わりは年寄りだから?実は食べものとなるとクリの方が子どもたちを押しのけてしまうので、こんなやり方になっているのです。クリは本当にまだまだ元気です。
 
さて、そんなバイカルアザラシのふるさと、バイカル湖とはどんなところなのでしょうか。

 

biwahaku_180522 (150)
背景に写真を配し、バイカル湖の水底を演出した水槽。琵琶湖博物館水族展示「古代湖の世界」のゾーンです。
 

biwahaku_180522 (121)_(142)
古代湖と呼ばれる湖は、どれも10万年以上の歴史を持ちます。一般の湖の寿命は1万年程度なので、文字通りとびきりの古さですが、それは同時に独自の進化をした固有種が生まれる可能性のある時間のレベルで、このような固有種がいることも古代湖と呼ばれるための重要な条件となっています。
バイカル湖の場合は約3000万年の歴史を持ち、古代湖の中でも世界最古です。数多くの固有種を持ちますが、このヨコエビの一種・アカントガンマルス ビクトリイもそのひとつです。ヨコエビ類はもっぱら水底に住み、石の下などで横倒しに生活するものが目立つところからこのように総称されますが、アカントガンマルス ビクトリイは遊泳能力に優れ、水深5~150mの広い範囲に分布するとともに、水底でもかなり活発に歩き回ります。
琵琶湖博物館では昨年5/22に世界で初めて本種の繁殖を確認し、現在も工夫・苦心とともに飼育を続けており、貴重な研究知見を蓄積中です。日本産のヨコエビはおしなべて体長1cm程度かそれ以下ですが、本種は体長6cmを超え、体の左右にあるとげも印象的です。特異なその姿をじっくりと観察してみましょう。

 

biwahaku_180523 (273)
biwahaku_180523 (306)
こちらはジェルトクルィラーヤ・シロコロブカ。アカントガンマルス ビクトリイと同じ水槽にいるカジカの一種です。カジカ類ももっぱら水底にいることを好みますが、大きな胸鰭を持つこの種は半遊泳性で、その泳ぎはまるで舞うようです。全身が黄色くなっているのは繁殖期のオスの特徴(婚姻色)で、こちらも成果が期待されます。
 

P8の差し替え写真
隣の水槽のボリシャーヤシロコロブカ(写真提供・滋賀県立琵琶湖博物館)。バイカル湖には33種類のカジカ類が生息しますが、ここで御紹介した2種を含む31種がバイカル湖固有種です。
 

biwahaku_180522 (288)
「古代湖の世界」では、バイカル湖のほか、アフリカの古代湖の魚も展示されています。2000万年を経ているともいわれるタンガニーカ湖や300万年を超える歴史を持つマラウィ湖です。写真はマラウィ湖に住むシクリッド(カワスズメ)と総称されるグループの一部です。マラウィ湖には800種類以上のシクリッドが生息していますが、その多くは北西にある先輩古代湖タンガニーカ湖から移入した、たった数種類のシクリッドが多様に分化したものと考えられています。
 

biwahaku_180522 (174)
そして、琵琶湖博物館にも大きな目玉のバイカルアザラシ。オスのバイです。
 

biwahaku_180522 (214)
冬の氷に閉ざされた水中を再現した中を滑らかに泳ぎ回ります(氷は模擬的なものです)。バイカル湖は水深や貯水量、そして透明度でも世界一です。バイカルアザラシは世界唯一の淡水生アザラシで(※3)、かれらの目玉は透明度の高い水中で視覚に頼る魚とりに適応していると考えられています。分厚い皮下脂肪も冷たい水の中で過ごす哺乳類ならではです。
 
※3.バイカルアザラシは、北極海を中心に分布するワモンアザラシに近縁とされ、バイカル湖に地理的に隔離(陸封)されることで独自の進化をしてきたと考えられています。

 

biwahaku_180522 (201)
哺乳類であるからには空気呼吸。結氷の中に開いた呼吸穴も再現されています。
 

biwahaku_180522 (441)
メスのマリは換毛中です。この時期はほとんど水の外で過ごします。
 

biwahaku_180522 (481)_(498)
トレーニング風景。
 

biwahaku_180522 (483)r
水槽の間際で観察できるチャンスも。飼育スタッフのサインに従った行動です。
 
biwahaku_180523 (317)
こちらもバイカル湖に生息するオームリと呼ばれるサケ科の魚です。オームリは燻製やムニエルのほか、ミンチにして餃子風に揚げるなど、現地では好んで食べられています。
 

biwahaku_180522 (228)
琵琶湖博物館ではバイカル湖周辺の食文化や漁業のありかたなども簡潔にまとめられています。
 

biwahaku_180522 (89)
食文化と言えば、こちらもユニークな展示です。魚屋の店先を模したかたちで、琵琶湖周辺の伝統的な湖魚料理を紹介しています。
 

biwahaku_180522 (97)_(101)
代表はやはり鮒鮨でしょう。米と魚が発酵した独特の香りを体験できるキットも設けられています。
 

biwahaku_180522 (354)
こちらが鮒鮨の素材となるニゴロブナ。琵琶湖固有の亜種(種よりひとつ下のレベルの分類)です。

 

biwahaku_180522-542_5461
琵琶湖もまた、古代湖です。元となった湖のありようを遡れば400万年ともいわれ、現在の湖が出来てからでも40万年となります。この長い歴史の中で様々な生きものたちの行き来や進化が起きてきました。水中トンネルに泳ぐ魚のひとつであるビワマスも琵琶湖固有種です。
 

biwahaku_180522 (52)_(70)
イワトコナマズとビワコオオナマズ。
イワトコナマズは琵琶湖とその周辺の限られた水系にのみ生息します。その名の通りに岩礁を好み、普通は色も岩肌に紛れる黒ずんだものですが、先ほど写真に掲げた水中トンネルには、珍しい色変わりの黄色個体がいます。
ビワコオオナマズは琵琶湖固有種ですが、最近の研究では1000万年以上前に日本の他のナマズ類から分かれたと考えられ、琵琶湖やその元になった湖で進化したのではなく、もっと古い起源の種が琵琶湖のみに生き残っていると理解されるようになっています。

 

biwahaku_180522 (614)_(621)
こちらは日本のみならず中国・朝鮮半島・台湾など、東アジアに広く分布するナマズです。初夏に浅い水域で繁殖するため、「琵琶湖と田んぼをむすぶ魚」として琵琶湖博物館でも研究が進められています。
 

biwahaku_180522-7371
水族館エリアの上では、琵琶湖とそれを囲むヨシ原などのジオラマやそこで暮らす小動物の展示が設けられています。刈り取ったヨシを乾かすための伝統的な技法「丸立て」。
 

biwahaku_180522 (720)
カヤネズミは日本最小のネズミで、カヤやヨシなどの葉で巣をつくります(生体を飼育展示しています)。

 

biwahaku_180522 (22)_23(732)
二階からは水族館エリアの入り口となるヨシ原の水中展示、そして実際の琵琶湖畔が望めます。
 

biwahaku_180523 (80)_(459)
biwahaku_180523 (126)_(132)
ここまでにもお話してきた琵琶湖の固有種やそれにまつわる近縁種についても、二階にコーナーが設けられています。カワニナ類は東アジアに広く分布しますが、琵琶湖ではヤマトカワニナなど10種類以上の固有種がいます。これらは40万年前に琵琶湖がいまのかたちとなってから、琵琶湖の中で分化してきたものと考えられています。
 

biwahaku_180522 (826)
琵琶湖固有種のヨコエビ。バイカルヨコエビと比べてみてください。
 

biwahaku_180522 (102)_(330)
コイ科のワタカも琵琶湖固有種です。琵琶湖博物館ではこのワタカなどの琵琶湖ゆかりの魚種を含め、数々の動物の繁殖に成功して、日本動物園水族館協会(日動水)の賞を受けています。
 

biwahaku_180523 (10)_(17)
かれらはさらに細かくはクルター類というグループに属しますが、クルター類は広くて浅い湖に適応しており、元々は日本列島が大陸と分離しはじめた頃の、後に日本海となる広大な淡水域で進化したと考えられています。いまでも大陸側にはクルター類が広く分布していますが、日本列島では琵琶湖のワタカだけが唯一の生き残りとなっています。ワタカが担う、そんな地球の歴史も当館では簡潔に解き明かされています。
 

biwahaku_180522 (1)p
水族館としての生きた動物たちと、さらに広がりを持った博物館展示が複合する琵琶湖博物館のありようを通して、バイカル湖、さらには琵琶湖の姿を御紹介してきましたが、当館では7/6完成予定の第二期リニューアルの一環として、新しいディスカバリールームも出来上がります。子ども・学校利用にとどまらず、大人も楽しく学べる場ということで是非また訪れてみたいと思います。
 

biwahaku_180522 (433)_23(289)
こちらは既にこの3月にリニューアルオープンした館内レストラン「にほのうみ」のメニューです。湖の幸の天丼(ブラックバス・ビワマス)や地元の県立湖南農業高校とのコラボレーションで生徒手製のマーマレードジャムをルーに加えたびわ湖カレーなどが楽しめます。
 

ishikawa_180524 (197)
最後にもう一度、いしかわ動物園に戻りましょう。当園内のレストラン「サニー」でもユニークな御当地メニューが味わえます。ケチャップ風味のバターライスに薄焼き卵・白身魚のフライにタルタルソースを添えたハントンライス。地元金沢生まれの洋食メニューとして知られています。
 

ishikawa_180524 (292)
ishikawa_180524 (258)
琵琶湖博物館同様、いしかわ動物園も地域に根差し、その自然の魅力を守り伝えることを重要な使命に掲げています。
トキ里山館は現在、点検・修繕中で付属の学習コーナーのみの公開となっていますが(※4)、佐渡の「トキの森公園」以外では当園のみの貴重なトキの生体展示となっています。
また、現在、国内の複数園で取り組まれているニホンライチョウの安定した飼育繁殖の試みにも二ホンライチョウゆかりの地・白山を擁する石川県の動物園として参加しています。写真はノルウェー産のスバールバルライチョウの展示。近縁亜種であるこの鳥の飼育展示での知見が、将来のニホンライチョウの飼育展示につながることが期待されています。
 
※4.詳しくは同園にお問い合わせください。

 

ishikawa_180525 (510)
いしかわ動物園には地元産の淡水生物を展示する施設もあります。ホクリクサンショウウオは1971年に石川県羽咋市で発見され、その後、新種として認定されましたが、当園が日動水の繁殖賞を受けています。
 

P23の差し替え
一方で琵琶湖との関連では皮肉な事態も起きています。
ビワヒガイは貴重な琵琶湖固有種ですが、琵琶湖産のアユに紛れて湖外にも放流されており、北陸を含む日本各地でその土地の近縁在来種などへの影響が危惧されています(※5)。既に御紹介したワタカも他地域に移入しており同様の国内外来種問題が起きていますし、翻って「湖の幸の天丼」のブラックバスは琵琶湖にとっても固有種・在来種を脅かす深刻な国外外来種です。
あるべき場にあるべきものがあること、固有種と外来種はその大切さを両側から照らし出していると言えるでしょう。

 
※5.実害についてはいまだ不明です。下掲リンクは国立環境研究所によるものです。
詳しくはコチラ
 

ishikawa_180524 (2)_25(544)
いしかわ動物園では現在、7月を目指してトラの屋外展示場をリニューアルしています(この写真のように部分的には展示を続けています)。
世界の動物たちが集ういしかわ動物園、古代湖の対比に学ぶ琵琶湖水族館。その豊かな体験がわたしたち自身を活気づけてくれるとともに、生きものたちとの未来にわたる関係づくりのヒントを与えてくれるでしょう。

 

動物園・水族館に行きましょう。
 

☆今回取材した園館

 

◎バイカルアザラシ・トキ・スバールバルライチョウ・ホクリクサンショウウオ・ビワヒガイ・トラに会える動物園
いしかわ動物園
 

◎バイカルアザラシ・アカントガンマルス ビクトリイ(バイカルヨコエビの一種)・ジェルトクルィラーヤシロコロブカ・ボリシャーヤシロコロブカ(以上2種はバイカル湖固有のカジカ類)・タンガニーカ湖およびマラウィ湖のシクリッド類・オームリ(バイカル湖のサケ科魚類)・ニゴロブナ・ビワマス・イワトコナマズ・ビワコオオナマズ・ナマズ・カヤネズミ・ワタカに会える水族館(文中に登場した生体の展示のみ表記しています)
滋賀県立琵琶湖博物館

 
写真提供:森由民

記事一覧

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。