トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第37回小諸なる古城のほとり、遊子楽しむ

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第37回小諸なる古城のほとり、遊子楽しむ

こんにちは、ZOOたんこと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。

 

今回ご紹介する動物:フンボルトペンギン、ホンドフクロウ、チョウゲンボウ、ヤクシカ、エミュー、ライオン、モルモット、パンダマウス、川上犬、ムササビ

 

訪ねた動物園:小諸市動物園
 

※1.特に注記がなければ、写真は2018年6月中の数回の取材に基づいています。
 

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1926年に創設された小諸市動物園は小諸城址・懐古園内にあり、長野県内最古であるとともに国内現存5番目の歴史を誇ります。そんなお城の動物園の親しみやすさと地元に根差したありようを、遊子(旅人)の垣間見ながらにお伝えしましょう。
 
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コンパクトな園ならではの楽しみ。餌やり体験もゆったり。飼育員が遠投しても、フンボルトペンギンたちは見事にキャッチします。
 
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足元に敷かれたマットはペンギンが足を痛めないようにという配慮です。多くの園館で施設は飼育的な配慮に補われて成立しています。
 
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夏に向けての試作・試行。夏の納涼イベント「流しアジ」は、透明のといを流れるアジをキャッチすることで、ペンギンのハンターとしての俊敏さを伝えます(※2)。
 
※2.詳しくはこちらを御覧ください。
 
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おっと逃した。
 
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まさに流し獲り。
 
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残りものに福あり?
 
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地球の裏側・南アメリカ大陸の鳥であるペンギンに続いては、地元の鳥です。こちらのホンドフクロウは2018年5月末に保護されました。トビに巣から落とされてしまったのです。目を傷つけてしまっているので野生復帰はかないませんが、動物園の環境にゆっくりと慣らしているところです。
 
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先程の写真(2018/6/15撮影)はまだ一般来園者が覗けない奥まったケージでしたが、その後、フサオマキザルの隣に引っ越しました。いまのところ、観覧通路に対して目隠しをしていますが(2018/6/25現在)、夏のナイト・ズーでの公開を期しています(※3)。
 
※3.担当飼育員が腕に据える(じっととまらせる)訓練もしています。
 
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ちょっとだけ覗き見させていただくと、束の間目が合いました。下段の白いのは瞬膜です。
 
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フクロウはなかなかに表情豊かです。こちらは保護個体しては先輩にあたる、ふくちゃん。5歳になります。幼鳥の時に巣を壊されてしまい、当園にやってきましたが、人工保育のため、もう野生には戻せません。園の展示個体として、フクロウの魅力を伝えてもらっています。
 
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続いてこちらはチョウゲンボウです。このオスは2018/5/28に来園しました(2018/6/25撮影)。何者かに襲われ、右の翼を失っているため、かれもこれからは動物園個体として暮らしていきます。少しずつ人慣れもして気ままに動きはじめているようです。
 
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こちらは2015/12/2に来園したメスで、チョウちゃん。防鳥網に引っかかって右足を失っていますが、動物園暮らしはベテランで好みの餌はウズラです。測定のために体重計を出すと自分から飛び乗ってきます。先程のオス個体より前身の色が薄く、頭まで茶色です。目のラインも目立ちません。比べてみてください。
 
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ちょっと視点を転じて。小諸市動物園は囲われたエリア以外にも、隣接した展示があります。遊園地に向かっていく道筋にあるシカ谷です。普段は道の上からの遠望となりますが、よく見ると同居しているエミュー舎もわかります。
特別イベントなどの折には、中に入ることも出来ます。
 
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今回は毎日午前中に行われるシカ谷の給餌に同行させていただきました。群れ動物ならではの眺め。
 
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再び園内へ。ライオンのナナがかぶりついているのは、実はシカ肉です。捕食者のニホンオオカミが人の手で絶滅していることもあり、長野県でもシカの逸脱的な増加は悩みの種です。農林業ひいては森林生態系全体へのダメージは深刻です。人の手で為したことは人が責任を取るしかないでしょう。いわばオオカミに代わって人がシカを狩っています。小諸市動物園では、こうしたシカ肉を餌として活用し、それを来園者にも伝えることで、わたしたちが他の動物たちをはじめとする環境とどのように向き合っていくべきなのか、考えるきっかけを提示しています(※3)。
 
※3.シカ谷で飼育されているのは本州産ならぬヤクシカですが、来園者には、生きたシカの群れを実感するよすがとなっていると思われます。
 
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ふれあい。それもまた、動物たちを知るきっかけです。
 
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モルモットやパンダマウスを飼育員の指導・補助を受けながらさわります。
 
※4.来園者の皆様の御同意を得て、撮影・掲載しています。
 
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こちらはイヌのふれあい?
実はこのイヌはかなり特別な存在です。川上犬さくらの散歩の前のひとときです。川上犬は、長野県南佐久郡川上村で猟犬として飼われてきた在来犬です。ことにはカモシカ猟に用いられたことで、山中をものともせずに駆け回る脚力や敏捷性が知られています。系統が途絶えそうな危機もありましたが、同村有志で結成された信州川上犬保存会を中心に復興と血統の保存の努力が続けられています(※5)。
 
※5.川上村で飼育されている個体から容姿・血統の優れたものが選別され、長野県の天然記念物に指定されています(同村内で飼育されていることが条件です)。
 
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散歩の行く先は園内の谷間(一般の立ち入りは出来ません)や懐古園内の各所です。季節によってはさくらと桜のツーショットも(2018/4/9撮影)。
 
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さくらは2009年に川上村で産まれ、生後3ヶ月から当園で暮らしています。尾が右巻きなのが川上犬の美質に適うと称揚されています。園内の展示場でのお気に入りは、水を撒いてもらっての水遊びです。
 
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再び、空を飛ぶもの。ムササビのメス「ここ」は2017年4月に保護された4個体のひとりです。これらの個体はすべて、巣のある木が伐採され、親が逃げてしまったことで来園し、さまざまな要素を考えあわせて、人工保育が決定されました。
 
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残念ながら他の3個体は既に亡くなっていますが、そんな事情を含めての諸々は、味わい深いチェーンソー・アートを載せたムササビ舎の掲示として丁寧に紹介されています。そこでは今回の人工保育に基づく知見が今後の保護個体にも活かされ得ることが語られ、森の生態系の一員としてのムササビに対する、人の手による森林開発の影響が指摘されています。前述したニホンオオカミの人為的絶滅とシカの暴走的な増殖も考えあわせてほしいとも記されています。
 
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ムササビ舎内は限られたスペースながら、ムササビが居心地よいようにあれこれの設備がなされています。これら二つの籠、「ここ」には下の方がお気に入りのようです。流れ落ちた排泄のあとがそれを教えてくれます(寝床はかなり頻繁に変わるようです)。
 
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樹皮もムササビの好物です。立てておいた幹もこんな姿に。
 
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葉や果実、針葉樹も味のよいところを選んで齧ります。
 
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翼がついた特徴的な姿のカエデの実。種の部分だけが食べられています。
 
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葉を主食とする齧歯類であるムササビの小さくてころころした糞。よく見るとカエデの葉の食べかすも落ちています。
 
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こちらは飼育員が調整して与えている餌です。いろいろ工夫して栄養面やムササビの好みに配慮しています。
 
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開園直後、「ここ」の体重測定です。変動はありつつも800グラム台の後半といったところです。
 
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ムササビが食べ残した枝葉はブタたちがきれいに平らげてくれます。ブタにとっても木の葉を多めに食べることはダイエットにつながります。
 
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そして、体重測定中のもう一頭、おおよそ600グラム(2018/6/25現在)。こちらは2018年4月初旬の生まれで5月に保護されたオス個体です。
 
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リンゴやカエデの葉、そんなものも口にはしますが……
 
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いまだミルクに御執心です。毎日、飼育員が調整したミルクを飲んで成長中。そろそろ離乳に向かってほしいところではありますが。
 
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ひとしきりの給餌・授乳のあとは排泄の世話です。本来なら巣穴で母親が舐めてやるところです。
 
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未来へ。
ムササビは本来、夜の住人です。園では今年のNIGNTZOOを8月9~11日で行い、ムササビたちのフリーフライトを行いました。(※6)今年生まれのオスムササビもそのためのトレーニングの真っ最中です。思いがけない事情で動物園に身を寄せることになったかれらですが、そのことを通して、わたしたちがかれらのような地元の動物たちと環境を分かち合い、互いに環境の一部となっていること、それを知り意識してなんらかの調整をするのは人間の側でしかないこと、そういったことにわたしたちが向き合うきっかけを与えてくれているのです。
 
動物園へ行きましょう。
 
(※6)イベントの様子はSNSで確認をお願いいたします。
 
小諸市動物園
 
写真提供:森由民

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