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幼児ママと保育者をつなぐ日本初のウェブサイト 小学館
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社会福祉法人 浪花保育園(福井・越前市) 山根有美子

「ひとり遊びから広がる共感の世界」

遊びの始まり―線路作り

 朝、廊下の踊り場で、積み木やカプラを使って、10人くらいの子どもたちが遊んでいる。「よく遊んでいるなぁ」と、しばらく見ていたが、一緒にいても、それぞれが個々に遊んでいるようだ。
 はると、こたろう、ゆういちろうの3人は会話をしながら積み木を積み上げていくことを楽しんでいる。いつきとクイナは向かい合っているが、よく見ているといつきは「家を作っているの」とつぶやきながら積み木を積んでいるし、クイナは、積み木を太鼓にカプラをバチにして、軽快に叩いて遊ぶ。そして、としゆきは、「線路を作っているの」と保育士にはいい、黙々と積み木やカプラを並べていた。
 この様子を見ていて、みんなが同じ空間で同じおもちゃを使い、一緒に遊んでいるように見えるが、遊びの様子や子どもたち同士のかかわり、つぶやきなどから、自分の好きな遊びを心ゆくまで楽しんでいる姿がわかる。
 特にとしゆきの線路作りは保育士の気持ちを強く引きつけるものがあり、これが4歳児のひとり遊びなのだと感じた。としゆきは電車が大好きで、毎日登園前や降園後、祖父の自転車の前に乗り、近くを走るJRの電車に手を振っている。2・3歳児のときから木製の線路を保育室いっぱいにつなげて遊んでいた。
 その日の片づけの際、としゆきは「このままにしておきたい」といった。線路に「こわさないでね」と書いた紙を貼り、その後も継続して遊びが楽しめるようにした。そして、このとしゆきのひとり遊びがのちにクラス一人ひとりの興味、関心、思いへとつがっていくことになる。

思いの違い―家作りへ

 線路作りが始まり3日目のこと。なおとも加わり、線路の上に積み木の電車を走らせている。「武生駅に着きました」といいながら、はりきるふたり。そのそばでは、別の男の子3人(けんしん、きょうへい、こたろう)がとしゆきの作った線路に別の積み木の電車を走らせている。同じ電車でも、人を乗せて走る電車をイメージするとしゆきとなおとに対し、3人は回転寿司のお店のレーンを走る電車をイメージして遊んでいる。同じ線路の上でも、子どもたちそれぞれが違うイメージをもって遊ぶとともに、遊びのなかにも、経験によって遊び方(イメージのもち方)が変わってくることのおもしろさを感じた。
 しかし遊びが進んでいくにつれて、5人のイメージが、つながっていく。
 そのきっかけとなったのは、学校の校舎がプリントされているひとつの積み木であった。最初にその積み木を見つけたのはきょうへいだった。
 きょうへいは、線路上にひとつだけできていた武生駅の右隣にそれを置き、「駅の近くに浪花保育園ができたよ」と伝える。きょうへいはふだんは車で通っているが、冬場、雪が降ると母親と一緒に武生駅まで電車に乗り、そこから保育園まで歩いて登園するので、武生駅と保育園は「近い」ということを知っていたのだ。
 するとなおとが「保育園と児童館も近いなあ」、としゆきも「ぼくは吾妻町っていう所に家があるの」といい、自分の家を作り始めた。としゆきに続き、なおと、きょうへい、けんしん、こたろうも新たに積み木を積み自分の家を作っていく。
 きょうへいが「先生、たくさん家ができたけど、どれが誰の家かわからんで名前を書いて」といってきたので、保育士が子どもたちの前で名前を書くと、それぞれの積み木の家にセロハンテープで貼りつけていった。
 遊び始めはそれぞれ違う電車をイメージして遊んでいた子どもたちであったが、「浪花保育園」という大きな共通のものができたことにより、同じイメージ(思い)を持って簡単な家作りが始まった。また駅や保育園、一つひとつの家などに名前をつけていくことにより「壊さないようにしよう」という意識が子どもたちのなかに自然と広がっていった。積み木やカプラということもあり、「すぐに壊れてしまうなぁ」と、その難しさを感じている子もいたようだが、「ここは保育園やな」「ここは○○ちゃんのお家なんか」というやりとりを楽しむようになっていく。

思いの広がり―町作りへ

 次の日、りゅうきが「入れて」と遊びに加わる。なおとが「りゅうきくんはどこに住んでいるの」と質問するが、りゅうきは首を左右に振り「わかんない」と答える。するとなおとはりゅうきの服についていた名札をめくり、保育士と一緒に3人で名札の裏に書いてある住所を読む。「越前市北府」と、少しオーバーに読んで聞かせると、なおとは「北府やって」とりゅうきに伝える。ニヤッと照れくさそうに笑うりゅうき。
 するととしゆきも「りゅうきくんは北府、ぼくは吾妻っていう所やで」とうれしそうに話をする。なおとも「ぼくは国府」「前田先生の家も国府」「じゃ、園長先生のおうちは府中」「山根先生の家は南条やな」「なんかむずかしくなってきたなぁ」といって笑う3人。そこから、新たに友達や保育士の家が増えていった。
 このようなやりとりから、身近な地域の名前に興味や関心を広げていったり、積み上げた家の高さや長さ、大きさ、形を比べたり、いくつの家ができたか数えてみたりと、遊びを通して学びの芽が育っていく姿が見られた。
 としゆきが作り始めた1本の線路をきっかけに、そこから駅や保育園、親しみをもって利用している児童館、そしてクラス一人ひとりの家ができていき、ひとつの町へと遊びが広がっていった。「私の家は3階建てだから、もう少し高くしよう」と意欲を出してくる子や、「引っ越しします」といって、大好きな友達の家の横に自分の家を移す子、「家は大丈夫かな。壊れていないかな」と頻繁にのぞきに来る子など、さまざまな形でクラスの子どもたちがひとつの遊びへ思いを寄せていった。
 ある日、としゆきができあがった家の数を〝ひとつ、ふたつ、3つ・・・〟と数え始める。すると、32軒の家しかないことに気づく。「あっ、家がひとつ足りない。誰の家がないんやろう」「◯◯ちゃんの家…、ある。△△くんの家はどこや…」と、保育士と一緒に探しながら確かめていく。すると、たいきの家がないことに気づく。たいきは、体調を崩し5日程欠席していたため、直接遊びには加わっていないのだ。たいきの家がないことに気づいたとしゆきは、「たいきくんの家も作ろう」といって自ら積み木を積み、〝たいき〟と書いた紙を貼って、クラス33人全員の家が出来上がった。

遊びの終わり―

 そして遊び始めて10日目、欠席していたたいきが久しぶりに登園してくる。すると、としゆきはたいきの登園を心待ちにしていたようで、「見て見て~、たいきくんの家もあるんやでー」と、たいきに声をかける。「お~すげー」と、目を丸くして積み木の家(町)をのぞき込むたいきの表情は、とてもうれしそうであった。としゆきも自分の思いを伝えることができたという喜びに満ちあふれた表情を浮かべていた。そして、クラス全員の家が建ったこと、また遊び込んで町の一部が壊れてきたこともあり、自然と子どもたちのほうから片づけへと流れ、町作りは終了した。
 作りはじめは、「また壊れた」といった声も聞かれたが、片づけるときには一気にくずれていく様子を逆に楽しんでいた。その姿からも遊びを〝やりきった〟という達成感や満足感が伝わってくるようであった。
 としゆきの積み木遊びを通し、4歳児のひとり遊びの大切さに改めて気づいた。この年齢ぐらいになると、ついつい保育士は人とのかかわりを持たせようと援助してしまいがちだが、まずは保育士との信頼関係のもと、自分の好きな遊びを心ゆくまで遊び込むことにより、少しずつ友達にも目が向き、かかわりが深まっていくのだろうと思った。
 私は、表面的な遊びをただ見るのではなく、遊びを通してその子どもの思いや感情、またそこから生まれてくる葛藤や意欲などを読み取りながら一人ひとりが心も体も充実して遊べるよう援助していきたい。
 子どもの遊びは、保育士が「見よう」としなければ本当の姿、かかわりは見えてこないと聞く。その子どもが「誰」と「何」を「どのように」して遊んでいるかを見る目を、保育士は養わなくてはいけないことに改めて気づかされた。
 その後、卒園までのとしゆきの姿を追っていくと、こままわしやなわとびなど困難に思うことも、できるようになるまで一生懸命取り組む姿が見られた。ひとり遊びをじっくりとする子どもは、他の遊びでも自分の力を発揮していくのだと気づかされるとともに、その成長には目を見張るものがあった。

受賞のことば

 このたび、「わたしの保育記録」に応募し、このような賞をいただけたことに感謝し、大変光栄なことと受け止めています。
 この事例は、園舎の耐震工事が行われた際、4・5歳児の子どもたちと保育者たちが限られた空間の中で、肩を寄せ合って生活していたときの記録です。「同じように遊んでいるように見えるけど、それぞれ違った思いで遊んでいるようね」という園長のひと言から、子どもたちの姿や表情、しぐさ、内面の動きなどのありのままを書き、子どもたちの育ちや保育士の援助のあり方、また課題などを考えていきました。
 園長からの日々の助言、また保育者同士の語り合いから、さまざまなご指導をいただいていることに感謝しています。

講評

一見したところ、同じ素材を用いながら同じ空間で集団遊びのように見える場面。それを保育者が深く観察し、その様子を理解していくと、それぞれの子どもが自分のひとり遊びを心ゆくまで楽しんでいることから深まり広がっていることに気づいていきます。その深い意義が10日間にわたる子どもたちの遊びを追うプロセスを通じて、しっかりと描かれています。ひとり遊びの発展が、最後はクラス全員が参加する町作りへと発展し、最後のみんなでやり遂げたという達成感、満足感で満たされていったプロセスは、子どもたちの豊かな共感が育まれていくプロセスでもあります。とことん遊び込むことの深い意義を保育者が洞察し、省察することは、保育の専門性を深めることに大きく貢献するでしょう。
東京家政大学特任教授 網野武博