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東京学芸大学附属幼稚園 竹早園舎 藤枝 陽子
『絵本NOTE』は、宝物!
~子ども・家庭・担任をつなぐ交換日記~
本年3月まで勤務していた台東区立田原幼稚園では、毎週「絵本の貸し出し」をしています。
子ども達は絵本が大好きです。
週末に「気に入った絵本」を選んで借りることを喜び、張り切っています。時には、借りたい絵本が友達と同じになり、競い合ったり、駆け引きをしたりすることがあります。
友達と一緒におもしろがって見ている本、絵やストーリーが気に入っている本、学級の友達みんなで話を聞いた絵本、お気に入りで繰り返し見ている絵本、学級で人気がある絵本など、借りたい絵本への思いは一人ひとり違っています。「○○ちゃんはどの絵本を選ぶのかな?」担任はウキウキ、ニヤニヤする瞬間です。
貸し出し回数が積み重なっていくうちに「ママに、このおもしろい絵本を見せてあげたい」「パパに読んでもらおう」「おにいちゃんに、この絵本にでてくるおもしろい言葉を教えたい」など、子どもなりの絵本の選び方も変化していきます。
『絵品NOTE』とは……?
絵本NOTEには、「絵本の名前」「読んでくれた人」「感想」を家庭で記入します。2~3行の小さい枠で、簡単に書けます。
ある週の感想です。
『ぐりとぐら』
◎カステラたべたいよー。たべようよー。
『あわてんぼりんご』
◎たまには、アワアワのお風呂も子どもたちも喜びそうだな…今度やってみようと思います。
『よーいどん』
◎やっぱりすぐに覚え、自分で読み返していました。子供の記憶力にまた驚きです。
『てじな』
◎姉と共に母の膝で楽しく読みました。何度読んでも楽しい本です。
『おしくらまんじゅう』
◎びぇ~ん、ぷるるる~んなど、おおげさに読んでみたら大よろこびでした。平仮名を手で追いながら一生懸命読んでいました。
5年前に異動してきた時……
『絵本NOTE』の感想を読んで印鑑を押しただけで返していました。絵本を見ている子どもの様子を記述していた時には、赤ペンでアンダーライン。学期末には一言感想を書く。という流れが、絵本の貸し出しでした。
ところが、毎週読んでいくうちに、絵本を通して家庭での親子の関わり合いが見えてきて、おもしろくなってきました。
すると、赤ペンのアンダーラインだけでは物足りなくなり、感想の横に「おもしろい」「楽しんで聞いている○○ちゃんの姿が見えます」など『一言』が書きたくなり、赤ラインも増えていきました。その次は『家庭からの感想の感想』を書きたくなり、自分から発信したくなる気持ちが抑えきれなくなってきました。
心のどこかで引っかかっていた“赤ペン”をやめ、“青ペン”に変えてみたら不思議なことに『一言』が増えていきました。赤ペンだと「先生」であることの意識が出ていたようです。同じ視線で、子どもや絵本のことを伝えることが心地よくなってきました。一言ではおさまりきれなくなり、担任のコメント欄が広がっていきました。
すると、担任のコメントを受けて、家庭からの発信も増え、感想の内容と表現の仕方がおもしろくなっていきました。
『絵本NOTE』がどんどんおもしろくなる!
絵本の感想や、絵本を通しての我が子の姿を担任に教えてくれたり、幼稚園で担任が見た子どものおもしろい動きや言葉を伝えたりしているうちに、大人同士の距離がギュッと縮まっていきました。でも、書かなきゃいけないという縛りはなく、力を入れ過ぎず、お互いに自然体で書いていったので、「楽しみながら、長く続ける」ことができたのかもと思っています。
こんな感じで、書くのも読むのも楽しい『絵本NOTE』になっていきました。
『おおかみと7ひきのこやぎ』
◎オオカミは手でしたが、前に留守番を○○君に頼んだら、顔と床をベビーパウダーで塗って、テーブルの下に隠れていたのを思い出しました(笑)
☆このコメント、おもしろ過ぎです!○○君すごい。そしておもしろがっているママもすごーい!
『ふしぎなナイフ』
◎父「この前はジージが読んだね、この本」
○○ちゃん「そうだね、、父ちゃんも読んでくれたよ」
母「みんなに読んでもらえて良いねー」
☆家族でこんなに深い話し合いをするなんてすごいです。嬉しいなぁ。次も楽しみです。
『ノンタンいたいのとんでけ~』
◎家に持ち帰って、さっそく「読んで」と催促されたので読みました。声を出して読んでいる時の○○ちゃんは元気はつらつです。最後まで読み終わると“おーしーまいっ”と得意げに? 本を閉じてます。ノンタンは我が家では競争率が高いので、まず、妹がいない時に読んでいます。表紙を見るや否や、妹二人が「のんたん!のんたん!」奪い合いです。
☆こんなに喜んでもらって、絵本とフジエダは嬉しいです。○○ちゃんの反応の速さ、すごいですね。ママの感想、○○ちゃんの姿がはっきり見えてきて、毎週楽しみにしています。
『おばけなんてないさ』
◎私が保育園の頃、大好きだった本で、子ども達に歌って教えていた歌。○○ちゃんは、何か見えたりするらしく? 何度か怖い思いをしてきたようで……。今度おばけを見たら、ちゃんと歌えば怖くない!と伝えました。
☆お弁当の時に保育室に現れるおばけがいます。○○ちゃんに聞いてみて…。どんな風にママに伝えるのかなぁ?
◎太陽のオバケ??? だそうです。私も見たい。
『もりのおふろ』
◎以前お風呂に入ったときに「ごくらくー」と言っていたので、教えてないけど、テレビで覚えたのかな?と思ったら、この本だったのですね。
☆すぐに実行、応用していたんですね。すごい!
『絵本NOTE』 は、おとなだけもの?
家庭と担任が、『絵本NOTE』を通して、キャッチボールができるようになりました。子どもは、ボールのように行ったり来たり、弾んだり転がったり。子どもが間にいるから、長く続きます。2~3行の中に、その人らしさが出て、もっと、子どものおもしろいことを見つけたいという思いを、一緒に味わえた気がします。家庭からの情報が増え、コミュニケーションが面白いほどに広がっていきました。時には、母親が悩み事を書いてくれることもあったり、母親が自分のことを語ったり…など、人間的なかかわり方をこの『絵本NOTE』を通して体験できました。それが「私の宝物」となりました。私の保育記録そのものです。
改めて……『絵本NOTE』は、宝物!
年長組を担任した時、卒園前に『絵本NOTE』に書いた最後の感想です。
私は、お家の方からの、『絵本NOTE』のコメントを見ることが大好きでした。毎週楽しみにしていました。初めは、借りた本について、お子さんの反応をマジメに書いていたのが、「書き方」がそれぞれいろいろな変化をしてきて、母たちの個性が出てきて笑えました。
・子どもだけでなく、大人自身の「読書感想文」になっていった『絵本NOTE』
・育児のお悩み相談となった『絵本NOTE』
・子どものおもしろいエピソードをこっそり教えてくれた『絵本NOTE』
・大人だけが絵本を読むのではなく、子どもと変わりばんこに読むことが登場してきた『絵本NOTE』
・お母さんだけでなく、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、兄姉、弟妹も参加してくれた『絵本NOTE』 など
『絵本NOTE』は、とても自由で、子どもも大人も「絵本がもっと好きになった」ことが素敵だなぁと思っています。1年生になっても、お子さんを膝の上に乗せて、いっぱい絵本や本を一緒に読んだり「読み語り」をしてあげてくださいね。(「読み聞かせ」より「読み語り」という言葉の方が、皆さんにはぴったりです)担任は、読んだ後コメントをもっと丁寧に返せばよかったのですが。反省しています。汚い字で読みにくかったことをお詫びします。この『絵本NOTE』は宝物ですね。この子どもたちは、国語が好きになります!私が保証します。 3月 藤枝陽子
最後に……
絵本を通して、一人ひとりの日々の姿や成長の記録となりました。これは捨てられません。
まるで、子どもと家庭と担任をつなげてくれた交換日記のようです。
残念なこと。私の手元には1冊もありません。私もほしかった『絵本NOTE』です。何年か後に、大きくなった子どもたちと一緒に、読み返して笑うこと。それが私の夢です。
受賞のことば
佳作に選んでいただき、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいです。文章で表現する難しさやもどかしさを感じながらのチャレンジでした。
私は、子どもたちや保護者の方との日々の出来事を書き留めたくなるメモ魔?です。このクセはやめられません。小さな積み重ねをこれからも大事にしたいと改めて思っています。
保育の中に、保護者も巻き込んでいくと子ども達も大人も保育者も楽しくなります。そのひとつが、この絵本ノートだったことを実感しています。大人も自分を出すことが心地良いと感じ笑顔になれる。このことを改めて教えてもらったことが、とても嬉しいです。
講評
子どもと親、親と保育者が、絵本と『絵本NOTE』を間につながっていく姿が、具体的なコメントとともに描かれた記録です。赤ペンを青ペンに変えたことで、親との関係に変化が現れることへの気づきは重要です。と同時に、親が書いたメッセージに「このコメント、おもしろ過ぎです」とコメントを返すセンスも秀逸です。保育実践記録の多様性・可能性を広げる、新しいタイプの記録としても評価できる記録だと思います。
山梨大学 加藤繁美