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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第44回動物園は誰のもの?

こんにちは、ZOOたんこと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。
 
今回御紹介する動物:トサシミズサンショウウオ、オオイタサンショウウオ、トサキン、ホンシュウモモンガ、ヤイロチョウ、ニッポンツキノワグマ、ニホンカモシカ(四国産)、ハヤブサ、トビ、ライオン、スマトラトラ、ジャガー、エリマキキツネザル、ワオキツネザル
 
訪ねた動物園:わんぱーくこうちアニマルランド
 

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高知市内、海辺近くに位置する動物園、わんぱーくこうちアニマルランド(以下「アニマルランド」)の屋内展示施設アニマルギャラリーです。目の前にあるのは、水辺を模したと思(おぼ)しいコンパクトな展示、可愛らしいけれどちょっと不思議な動物のイラストが添えられています。
 

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展示陸上部の岩陰からつぶらな瞳が覗きます。
 

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この動物の名はトサシミズサンショウウオ。イモリなどと同じく尾を持つ両生類(有尾類)の一種です(※1)。その名がよく知られているオオサンショウウオは西南日本のみに分布しますが、小型サンショウウオの仲間は北海道から九州まで幅広く生息しています。移動の能力の低さもあってか、地域や水系によってさまざまな種に分かれていますが、その広がりと多様性こそが日本列島の地理や自然のありようをよく示していると言えます。トサシミズサンショウウオも高知県土佐清水市のとある場所にのみ生息していることが知られています。
トサシミズサンショウウオでは、特にメスや幼い個体で腹部に白っぽい斑点が見られるのが特徴のひとつとなっています。
 
※1.この写真の個体は非公開のバックヤードで飼育されているものの一頭です。
 

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こちらは同じくバックヤードで飼育されているオオイタサンショウウオです。大分県を中心に熊本県・宮崎県に分布し、さきほどのトサシミズサンショウウオのような白斑もなく、まったくの別種です。
このように記せば、そうなんだなと思われるだけでしょうが、実はつい最近まで、トサシミズサンショウウオはオオイタサンショウウオの飛び地的な分布であると考えられていたのです。1972年に土佐清水市の小学生が卵嚢(たくさんの卵の入った袋状のもの)を見つけ、1976年にオオイタサンショウウオであろうと同定されました。ぽつんと飛び離れた四国の地、しかもその後も最初の発見地である水場以外ではまったく発見されていないことから、その稀少性と絶滅の危惧の双方が認識され、生息地の土地所有者の方の御厚意もあって地道な保全の努力が続けられてきました。
アニマルランドも2000年から調査保護活動を開始し、飼育下での繁殖にも取り組んできました。生息地が限られているとき、飼育下個体群を確立して代を継がせていくことは、万が一の絶滅に対する有効な対抗策となります。飼育下ならではの細やかな生態研究が野生での保全にフィードバックすることも期待されます。そして、展示を通して人びとの理解と支持を得ることは、これらの事業の維持・拡大に欠かせないものなのでもあります。
この間(かん)、このサンショウウオは遠い昔に九州と四国が地続きだった時に渡来し、現在まで細々と生き残ってきたと考えられていました。それもまた貴重な歴史の生き証人と言えます。これによって2017年には土佐清水市の天然記念物にも指定されています。
しかし、DNAレベルを含めてのあらためての入念な検証の結果、まったくの別種であることが明らかとなり、昨年(2018年) 、アニマルランドのスタッフも名を連ねての英語記載論文がアメリカの両生爬虫類学の専門誌に掲載されました。世界的に別種であるとの報告がなされたことになります(※2)。
 
※2.DNA解析の結果、トサシミズサンショウウオとオオイタサンショウウオよりも、オオイタサンショウウオとツシマサンショウウオ(長崎県対馬)やオキサンショウウオ(島根県隠岐諸島の島後(どうご)島(じま))などの方が近縁かと思われるのがわかりました。それだけ古くに分岐して進化したことになり、おそらくは中国地方と四国がつながった時に本州側から渡ってきた小型サンショウウオのグループから進化したのがトサシミズサンショウウオであろうというのが現在の見解です。
以上を受け、トサシミズサンショウウオは高知県のレッドデータブックで絶滅危惧I類に指定されました。
 

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園での飼育下繁殖の最初の成功は2010年ですが、これがバックヤードにある繁殖装置です。
 

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箱の中はさきほどのアニマルギャラリーの展示同様に陸上部・水中部を持つ水辺のかたちに造られています。陸上にいるのがメスと水中がオス。既に記した腹部の白斑の明瞭さのちがいなどがありますが、そこまで確かめなくてもこの時期には簡単に見分けられます。いま、かれらは産卵期を迎えているのです。
小型サンショウウオは幼生(いわゆるオタマジャクシ)の間は水中にいますが、成体になると普段は陸上で過ごし、藪や林で落ち葉の下の虫を食べたりしながら暮らします。そして、繁殖のシーズンを迎えるとまずはオスたちが産卵に手頃な水場にやってきます(※3)。そこでおなかに卵を抱えたメスを待ち、メスが訪れて卵嚢を生み出すと、オスは我先に群がって卵嚢を抱え込み受精させます。つまり、さきほどの写真は、メスを待つオスだけが水中にいる状態だったのです(※4)。
 
※3.トサシミズサンショウウオやオオイタサンショウウオの場合は池や水たまりなど、いわゆる止水です。他に流水性の小型サンショウウオもおり、かれらはせせらぎや、時には地下を走る水流にまで潜っていって繁殖を行います。
 
※4.この時期、オスは尾が縦に扁平になり、後足のあいだ辺りの総排出腔(精子もここから出ます)の基部がハートのようにふくらみます。観察できる時期が限られますが、これらも雌雄差となっています。
 

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こちらは産みつけられた卵嚢です。オオイタサンショウウオの卵嚢はいわばバナナ型をしていますが、トサシミズサンショウウオではひも状の卵嚢がコイルのように巻いているのが観察できます。
既に御紹介した展示にはオス4個体のみですが、当園全体では229個体が保有されています(2019/03/01現在)。
小さな存在、きっかけがなければ地元にそんな生きものがいると知ることもないかもしれないトサシミズサンショウウオですが、かれらは紛れもない地元動物として「土佐清水」の名を負っています。それをどのように受け止め、かれらとともに暮らせる環境を守り、活き活きとした誇りとしていくか。それを考え行動できるのは人間の側だけです。
 

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アニマルギャラリーの入り口横には何種類かの金魚が展示されています。写真はトサキン(土佐錦魚)です。1969年に高知県の天然記念物に指定された地元在来の品種で、日本三大地金魚のひとつとも称されます。牡丹の花にたとえられる美しいそり尾は丸鉢の中で育てられることでかたちを成します。金魚を鉢に入れて上から観賞するというのは日本の伝統ですが(※5)、トサキンはまさにそんな文化が生み出したものです。ここにも動物と人の関係の歴史があります。
 
※5.詳しくはこちらを御覧ください。
「こがねうお、鉄の魚」
 

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アニマルランドにはしばしば傷ついたりした野生動物が託されることもあります。その中には治療やリハビリで野生復帰するものもいますし、また展示個体となって、わたしたちの身近で暮らす動物種の姿を伝える役割を担ってもらう場合もあります。ホンシュウモモンガのオス・末吉も2014年に保護されてきました。
夜行性の動物ではありますが、そっと覗けば、こんな姿も垣間見られるかもしれません。あくまでも、かれらの世界を訪れさせてもらう心構えでそぉっと。
 

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アニマルランドは日本動物園水族館協会から、さまざまな動物種について加盟園館で初めて繁殖に成功した証としての繁殖賞を受けています。その記念プレートもアニマルギャラリーに展示されていますが、高知県産オオイタサンショウウオ(トサシミズサンショウウオ)やホンシュウモモンガも名を連ねています。
トサシミズサンショウウオについては、当園の飼育繁殖の成功を受けて、現在、土佐清水市の足摺海洋館と熊本市動植物園でも飼育が行われています。
アニマルランドでは今後、トサシミズサンショウウオの展示をさらに充実させるとともに、四国に生息するオオサンショウウオや他の小型サンショウウオとの比較展示なども行っていきたいと構想を温めています。
 

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こちらも、アニマルギャラリー内の地元産動物。ヤイロチョウは八色(やいろ)にとどまらない豊かな羽色を持ち、高知県の鳥に指定されています。動物園展示は当園のみです。この個体はピッタと呼ばれており、10歳を超えているのは確かなオスです。小鳥として高齢なのは間違いありませんが、そのせいもあってか人怖じせず、動物園ならではの親密な観察が可能となっています(※6)。
 
※6.野生では声はすれども姿は見えずということも多く、「森の妖精」と呼ばれています。
 

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そして、ニッポンツキノワグマのオス・ワカ。かれもかなりの人懐こさです。もっとも何よりも気ままな性分のようで、ケージの奥の方でごろりと寝ていたり、しかしそれも含めての静かな人気を集めている個体です。
 

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ワカの名は、かれが捕獲された和歌山県に由来します。かれは人里近くに出没したことで二度にわたって捕獲されました。ワカのように人を恐れない個体を野生のままにしておくことは危険です。そこで、アニマルランドが引き取ることになりました。かれの人との距離の近さが園では展示の魅力になっているのは前述の通りです。そんなかれを間近で観察しながら、クマと人の適切な距離について考えてみることが出来るでしょう。いま、四国のニッポンツキノワグマは絶滅の危機にあります。このポスターはそんな現状を伝えるためにつくられ、四国の四つの動物園にも掲示されています(※7)。
 
※7.当園および、高知県立のいち動物公園・愛媛県立とべ動物園・とくしま動物園。当園ではワカに関する園独自の解説も併設されています。共々に御参照ください。
 

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こちらもニッポンツキノワグマ同様に日本を代表する動物であり、さらには四国産個体です。四国産ニホンカモシカの母子、アヤとテニア(2018年生まれ)です。ニホンカモシカはオスメスともに単独生活者なので、母親と娘でもせいぜい2~3年が同居のメドで、こんな姿も期間限定というところです。
四国産個体は本州に比べて小型で角の反りが強く、おしなべて体色が濃いといった特徴があります。アニマルランドでは、この四国での独自の進化が窺われるカモシカたちを飼育繁殖して守るとともに、展示を通して、その存在価値を伝え続けています。当園から搬出された個体を基に、とくしま動物園・広島市安佐動物公園・上野動物園で、四国産ニホンカモシカが飼育展示されています。
かつてはニホンカモシカは四国の広い範囲に分布していたと考えられていますが、いまは高知・徳島県境を中心とする地域にのみ生き残っています。ところがその分布域内で現在、分散傾向が見られます。一度は徳島県境の高知県側に限定されていたものが、県境の吉野川を越えているのが確認されています。愛媛県への進出も疑われます。
これらは個体数が回復しての再分布ではないようで、むしろさらに生息環境が悪化して、各個体が広い範囲を動かなければならなくなったのではないかとも危惧されます。
前述のように単独生活者であるかれらにとって、このようななりゆきはオスメスの「出逢い」の機会の減少につながり、繁殖が途絶えてしまうことが心配されています。アニマルランドの飼育繁殖・展示、ひいては人びとに四国産ニホンカモシカのありようを伝える営みが大切なのは、こんな意味からでもあります。
 

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こちらはテニアと父親個体のテツです。お互いに父子という自覚はないでしょうが、テニアにとってはオスとの折々の接近も大切な学びとなっているでしょう。
 

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神経質な個体も多いカモシカですが、テツはだいぶおおらかなようで、飼育員によく寄ってきます。2001年にアニマルランドで生まれたテツは、四国産個体としては飼育下最高齢で、それもこんな性格と関係しているかもしれません。
もっとも、オスは独立心をもってメスにアプローチしていかなければならず、飼育上あまりべたべたはしないように注意しています。一方でメスは子育ての際などに飼育員がサポートできるように、ある程度は深く接するようにしています。
 

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こちらはササとサチコ(2017年生まれ)の母子。
 

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こうやってフェンスに足をかけてくれたりすると、岩場を身軽に行動するかれらの柔らかく開く蹄の様子もよくわかります。これはおそらく、わたしに懐いているのではなく、警戒しながらも様子を見に来ているのでしょう。それがカモシカたちの都合ということであると思われます。
 

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ササ母子がフェンス越しに意識するのは……。
 

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オスのコウ。サチコの父親に当たりますが、かれもまた子どもと同居することはありません。コウは広島の安佐動物公園で生まれて当園にやってきました。かれ自体が繁殖ネットワークの賜物というわけです。
アニマルランドのカモシカ展示「カモシカ村」は比較的コンパクトなものと映りますが、それぞれの展示場にはかれらが辺りを一望しながら寛げる高みとしての岩場・成長期に走り回っても大丈夫な程度の面積、そしてオスメスそれぞれ原則として単独で暮らしつつもお互いを意識してペアリングにつなげられる社会的な機能を持った区画構成といったように、長年の飼育で培われたミニマムな要素がきちんと組み込まれています。それは、わたしたちもいささかの知識を蓄えるなら、アニマルランドでのカモシカたちの姿の向こうに野生を見て取れるということです。展示を通して野生を再現し、野生本来の環境の保全し動物たちと共生することに意識を向けさせる。動物園と来園者の間でのそういう営みの成否は、生きた野生動物を飼育展示するという動物園の存在意義が認められるかの重要な判断材料となるでしょう。
 

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こちらは、テツと同じく2001年生まれのメス・ナツと2017年生まれのオス・ハツヤです。ふたりに母子関係はありません。ナツは妊娠しない体質なのがわかっているので、ハツヤにメスとの付き合い方を学んでもらう意味もあって同居させています。
 

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地元産保護個体にはしばしば鳥も加わります。このハヤブサは羽の骨折で野生復帰は叶いませんが、オスメスなので飼育下繁殖も視野に入れて同居させています。
 

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トビのヒューイと来園者のお子さん(保護者の御承諾を得て撮影しています)。ヒューイは来園者と間近で向き合い、触れることも可能なように、さらにはフリーフライトも出来るように訓練しています。少し前に体調を崩し、いまはバックヤードで養生しながら、時々園内に出ています。
 

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こちらがヒューイの展示用ケージです。体調が落ち着いたらまた、ここに戻ることになっています。
 

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ここまでアニマルランドが地元の動物たちとどのように向き合い、それを来園者に発信するべくいかに工夫しているかを見てきました。カモシカ村に隣接した「いきもの情報室」では、他にもさまざまな地元の生きもの情報がまとめられています。アニマルランドの活動の基盤を知るためにも、是非足を踏み入れてみてください。
 

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さて、アニマルランドは別の意味でも地元に根差した身近な動物園です。街の一角にあるコンパクトな都市型動物園であり、無料で利用することが出来ます。一方で、既に御紹介したニッポンツキノワグマのほかにも、ネコ科の猛獣たちが集められています。動物園に対する素朴なイメージはこれらの動物の方が強いかもしれません。以下、ささやかながらアニマルランドなりのそんな動物たちの飼育展示の様子を覗いてみます。
まずはライオン。クールに構えるメスのサンを奥に、ぺろりと舌を出すのはオスのキズナ。
 

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その舌の感触は、ライオンの観覧窓に隣接したこちらでどうぞ。靴の泥落としで安全な疑似体験が出来ます。ライオンはその舌を活かして、獲物の骨についた細かな肉もこそげ取れます。
 

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一方、こちらはスマトラトラのオス・アカラ。2013年に仙台市の八木山動物公園で生まれ、アニマルランドにやってきました。ペアになるメスはいませんが、前述のカモシカ同様、トラも単独生活者です。全国に8つあるスマトラトラ飼育園が互いに連携して個体を移動することで、理想的なペアリングや、飼育スペースを確保しながらの繁殖の取り組みが可能になります。いま、アニマルランドがアカラを受け入れているということ自体が、大きな意味での繁殖プロジェクトの一環なのです。
 

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これもさきほどアカラがいたのと同じ展示場です。現在、もう一頭(一種類)の動物との午前午後でのシェアが行われています。こちらはジャガーのオス・ハク。2017年の生まれです。ジャガーも全国で9園のみの飼育展示なのですが、こちらについてはアニマルランドが大阪市天王寺動物園生まれのメス・葉月ココを受け入れるとともに、ドイツからもオスのルモを導入して、繁殖園としての機能を担っています。アカラとの交互展示は施設の都合でもありますが、互いのにおい等がよい刺激になれば何よりです。
 
御当地・高知ひいては四国ゆかりの動物たち。そして、国内園の繁殖ネットワークの一翼を担ってもいる外国産動物たち。舌足らずながらもアニマルランドの二つの顔を見てきました。
それを踏まえながら、最後にいささか唐突ながら「動物園は誰のもの?」と問うてみましょう。
ひとつには、動物園は元より市民のものです。しかし、動物と人の関係を考えるという役目を担っている以上、それは人の側が一方的に動物たちを見たり触れたりして楽しむ場ではありません。また、人と動物やそれらを取り巻く環境はつながりあいながら広がっているのですから、動物園が語りかけ働きかけるべき「市民」も、地元の皆様を要としながらもそこにとどまらないものとなるでしょう。トサシミズサンショウウオをはじめとするアニマルランドの取り組みは、端的にそのことを教えてくれていると思います。
さらに、動物園動物はかれらが属する種の代表であり、自然への門口となる存在であるとともに、それ自体、生きた個体です。だからこそ、かれらへの飼育的ケアが必要となります。それなしでは、動物園動物の健康はなく、ひいては野生の再現の役割も機能しているとは言えなくなるでしょう。
 

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アニマルギャラリーのエリマキキツネザル。かれらは比較的大型のキツネザル類ですが、枝から器用にぶら下がるようにして採食し、そういう習性もあってか、果物などを仰向くようにして呑み込むことが知られています。アニマルランドの展示に設けられている給(フィー)餌器(ダー)はそのような行動を引き出し来園者に展示するとともに、動物たち自身の生活環境をより豊かにしようとするものです。
 

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こちらは同じくエリマキキツネザルのバックヤード。御覧のような手作りの機器を用いて、腕を出させる訓練をしています。これは健康管理に役立てるためで(ハズバンダリートレーニングと呼ばれます)、既に採血も成功しています。かれらが自主的に腕を出して取っ手を握るように仕向け、それが出来たら薄めたジュースの報酬を与えるというかたちで動物と人の約束をつくっていきます。最初は取っ手の位置が遠すぎたり近すぎたりで、ようやくかれらのサイズに相応しい機器が出来上がりました。
 

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こちらも別の動物のための採血を想定した装置です。竹筒が報酬の餌(蒸し芋・柿など)を与える機器となります。斜めになったスペースに入ってもらうことで動きを抑制し、尾からの採血を狙うのですが、その対象となる動物とは……
 

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ワオキツネザルです。かれらはエリマキキツネザルよりも小型で腕からの採血はそぐわないかと思われ、上記のような装置が工夫されています。現在、キツネザル類の飼育担当者は、尾からの採血はエリマキキツネザルにも相応しいのではないかと考え、そちらについても取り組みを進めているところです。
人工物やトレーニング、一見すると自然に反するようにも映りますが、それらもまた動物たちの習性や元々持つ学習能力に則っており、かれらの飼育下での環境の豊かさや健康な暮らしを守ることにつながり、結果として動物園の展示機能の適正化や充実にもつながることが期待されているのです。来園者にとっても、それらの営みを意図と併せて知ることは、動物という近くて遠い他者への、お互いの差異を踏まえての思いやりにつながることでしょう。
 

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動物園は誰のもの?
市民のため、動物種の現在と未来のため、飼育個体のため……どれも重要で互いにつながり合い、割り切った順位付けが出来るものではありません。その重なり合いを実感することこそが動物園体験と言えるでしょう。
街のコンパクトな動物園、わんぱーくこうちアニマルランド。晴れた日にそこに立てば、青空は動物園を街を越えて、遠く世界につながって見えます。
 

動物園に行きましょう。
 

わんぱーくこうちアニマルランド
 

写真提供:森由民

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