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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第63回鳥はとりわけて鳥である

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。 
 
今回御紹介する動物:ハシビロコウ・アジアゾウ・アルダブラゾウガメ・アカハライモリ・トリケラトプス・デイノニクス・チンパンジー・ニシゴリラ・オジロワシ・ツクシガモ・オナガガモ・アカツクシガモ・フンボルトペンギン・カリフォルニアアシカ・エミュー・ヒワコンゴウインコ
 
訪れた動物園:千葉市動物公園・台北市立動物園
 
※注記のない写真はすべて千葉市動物公園での撮影で、2021/10/29・30の取材を中心に過去の写真も取り混ぜています。台北市立動物園については、コロナ禍以前の訪問です。
 
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翼をはためかせて大空を舞う鳥(ハシビロコウ)。地に立つわたしたち人間は、自分たちとはまったく異なるからこそ鳥たちにあこがれるのでしょう。哺乳類、そして霊長類の一種として進化してきたヒトは、進化の系統でも鳥類とはまったく異なります。
しかし、実は鳥類とヒトは、よく見比べると意外な共通点があるのです。まずはそのことからお話ししましょう。
 
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こちらはアジアゾウ。アフリカゾウに次いで大きな陸生哺乳類です(※1)。
 
※1.クジラ類は海水の浮力に助けられて、さらに大きくなれるので、地球最大の動物はシロナガスクジラです。
 
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一方、ゾウはゾウでも爬虫類のアルダブラゾウガメ。アジアゾウと比べていただきたいのは立ち方です。ゾウは体の下にまっすぐに足が伸びています。これは哺乳類一般に当てはまる特徴です。しかし、カメをはじめとする爬虫類は体の両側に足が張り出すような姿となっています。
 
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これは両生類も同様です(アカハライモリ)。つまり、現在地球上にいる四つ足の動物では、哺乳類以外はみな、足が体の両側に張り出すような立ち方をしていることになります。
 
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しかし、こちらはどうでしょう(トリケラトプス・台北市立動物園)。恐竜は大きくは爬虫類の系統に含まれますが、現生の爬虫類の主だったものとの関係でいうと、まず爬虫類の系統の中からトカゲやヘビの仲間が分かれ、次にカメ類が枝分かれします。そして、さらにワニの系統と分かれて進化してきたのが恐竜ですが、トカゲ・カメ・ワニのどの仲間とも違って、恐竜は足が体の下にまっすぐに伸びています。
 
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こちらは小型の肉食恐竜でデイノニクスです。このように恐竜の仲間からは二本足で立つものも現れました。また、これらの中には体の表面に羽毛を発達させるものもいたことが分かっています(※2)。かれらは羽毛恐竜と呼ばれています。初期の羽毛がどんな適応的な意味を持っていたのか、たとえば翼への進化の前に保温の役目を持っていたのかなどはいまだ議論されているところですが、いずれにしろ、このような二足歩行の羽毛恐竜から鳥類が生まれたのは間違いありません。そして、「ここまでは恐竜、ここからが鳥類」と客観的に線引きすることは困難なので、いまや鳥類は唯一現在まで生き残っている恐竜と捉えられています。
 
※2.現在ではデイノニクスも体に羽毛をまとっていたとされています。
 
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そういうまなざしで見るとき、鳥はわたしたちヒト同様にまっすぐに伸びた二本の足で立つ動物としての姿をあらわにします。
 
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現生の動物の中で進化の系統上、ヒトに一番近いのはチンパンジーです(※3)。チンパンジーも二本足で立つことはありますが、それは一時的な行動です。
 
※3.もう一種類、ボノボがいます。チンパンジーとボノボは、ヒトに向かう進化の系統と枝分かれした後に、同一の系統の中で分かれた姉妹種です。
 
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チンパンジーにとって、最も自然な歩き方は軽く握った手を地面につけた一種の四足歩行で、ナックル・ウォーキングと呼ばれます。このような姿と比べると、鳥とヒトの直立二足歩行の共通性がはっきりします。
 
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ヒトを含む霊長類の大きな特徴は、親指(第一趾)が他の四本の指と逆を向いていて(拇指対向性)、ものをしっかりと握れることです(写真はニシゴリラ)。樹上性を失い地上での直立二足歩行の生活に適応したヒトでは手(前足)だけですが、他の霊長類は四本の手足すべてが拇指対向性を示し、枝をしっかりと握る樹上性動物としての特徴を示しています(先ほどの直立するチンパンジーの足の指も見てみてください)。
鳥類を生み出した小型肉食恐竜にもこのような手を持つものがいたことが知られています。7000万年前あたりを中心に現在の北アメリカ大陸に生息していたトロオドンは、拇指対向性の三本指の前足をしていました(※4)。かれらは体に対する脳の大きさの比率も大きく、高い知能を持っていたと推測されます。器用な前足で簡単な道具を使うといった行動もしていたかもしれません。
 
※4.現在の鳥類の前足(翼)にも、親指・人差し指・中指の骨が残っています。
 
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前足を翼に変えた鳥類は、ヒトやトロオドンのような手を使った行動はできません。代わりに大きな役割を担っているのが、鳥の種ごとにさまざまなかたちをとるくちばしです。
 
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ハシビロコウはしばしば長時間、じっとたたずんでいることで有名ですが、野生では水辺でこのように待ち伏せし、寄ってきた魚を思いがけないほどの早業でとらえます(※5)。この時、「大きな靴に似ている」とされることもあるくちばしが狩りの手立てとなるのです。
 
※5.この写真は以前に特別なかたちで行われた給餌を撮影したもので、平常のイベントではありません。ハシビロコウの狩りについては、以下も御覧ください。
「生きた化石と御長寿鳥」
 
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こちらはオジロワシです。ワシやタカの仲間はフクロウ類と並んで「猛禽」と呼ばれ、代表的な肉食鳥類です。ワシ・タカのくちばしは鋭く、捕らえた獲物の肉を食いちぎるのに適しています。
 
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そして、かれらの場合、獲物を捕らえるのには主に後足が使われます。オジロワシの獲物は海鳥や海産魚類などですが、鋭い爪の足でがっちりとつかんで狩りをします。御覧のように親指が他の三本の指と向き合う拇指対向性です(小指に当たる第五趾はありません)。
拇指対向性は枝などにとまる時にも役立ちます。
 
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鳥類の後足のかたちもいろいろです。カモ類などは水かきを発達させて泳ぎに適応している代わりに、拇指対向性を活かしてものをつかむ機能は失われています(ツクシガモ)。
 
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また、平たいくちばしは水面に浮かぶ水草などを食べるのに向いています(オナガガモ)。
 
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かれらのくちばしの特性に合わせて、動物園でも、このようなかたちでの給餌が一般的です(アカツクシガモ)。
 
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そして、水中に適応した鳥といえば、やはりペンギンです(フンボルトペンギン※6)。ペンギンは飛ぶことをやめ、翼の骨が太くがっしりとなりました。その堅い翼を活かして、文字通り飛ぶように泳ぐことができます。
 
※6.フンボルトペンギンとその仲間たちについては、以下を御覧ください。
「ペンギンを見分けよう」
 
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哺乳類にも、同じように泳ぐための前足を進化させたものがいます。アシカの仲間です(写真はカリフォルニアアシカ)。ペンギンとアシカのように、異なる系統の生きものが同じような環境(ここでは海中を泳ぐこと)に適応して、よく似たかたちや習性を獲得することを「収斂進化」と呼びます。
 
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アシカは後足もひれになっています(ペンギンは水かきのある後足をしています※7)。
 
※7.さまざまな陸生動物の仲間から生まれた種の泳ぐことへの適応については、以下を御覧ください。
「泳ぐ動物の「前輪駆動」・「後輪駆動」」
 
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さて、こちらも飛ぶことをやめた鳥ですが、水中生活への適応ではありません。エミューは親指と小指が退化した三本指のがっしりした後足をしています。その足はものをつかむ能力を持ちませんが、代わりに力強く地面を蹴って走ることができます。
 
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一方で、翼はほんのわずかに残されているだけです。エミューのほか、ダチョウ・ヒクイドリなどが、このような地上を走る進化によって、翼の退化と頑丈な後足の発達を見せており、かれらは「走鳥類」と呼ばれています。
 
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いかつい印象のエミューですが、主に昆虫・果実・種子・草などを食べています。
 
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最後に、とても器用なくちばしと後足を持った鳥を紹介します。ヒワコンゴウインコは垂直な面の上り下りなどで、後足のほかにくちばしも活用します。
 
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かれらの後足は、一般的な鳥類同様、小指以外の四本を持ちますが、人差し指(第二趾)も親指側に回すことができるので、しばしば二対二のかたちでものをつかみます。さきほどのはしごを降りる行動でも、このようなつかみ方で安定した移動をしているのがわかります。
 
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もちろん、食事なども後足を活用します。野生でも堅い果実なども、こうやってしっかりと保持しつつ、頑丈なくちばしでかじって食べることができます。
 
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さらにはこんなくちばしの使い方も。ヒワコンゴウインコは中央アメリカの森で、つがいや小さな群れで暮らします。互いに羽づくろいをしてやる姿などに、そのようなかれらの社会性をうかがうことがではます。
 
遠い昔の地球で、魚類と枝分かれした進化の系統は、まずは両生類へと向かいます。最初の、背骨を持つ四つ足の陸生動物の誕生です。そこからの枝分かれは、やがて大きく二つに分かれます(※8)。そのうちの一方の枝では、わたしたちヒトを含む哺乳類がいまも生きています。そして、もう一方の枝からは、わたしたちが爬虫類と呼んでいる動物たちとともに恐竜が生まれ、現在の鳥類へとつながっています。
鳥類はわたしたちと大きく離れた存在です。しかし、かれらとヒト、あるいはその他の動物たちを比べ合わせることで、わたしたちは意外な共通点を見つけることができたり、あるいはちがいはちがいとしつつ、それぞれの動物たちの体のしくみや習性などが、生息環境と結びついた適応になっていることを読み取ることもできます。そうやって比較対照の中から、さまざまな生きものを生み出してきた進化の力につながれた、いくつもの系統の全体を見出すことができるのです。
 
動物園で見つけましょう。
 
※8.ここでは、多くの現在では完全に姿を消してしまった進化の系統の枝分かれには言及していません。四足動物の多様性や進化については、こちらも御覧ください。
「ビバリウムから「あし」を延ばして」
 
写真提供:森由民
千葉市動物公園
台北市立動物園 (英語のサイトが開きます)

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