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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第47回みさき巡り

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。
 
今回御紹介する動物:ツキノワグマ・ニホンザル・スマトラトラ・モルモット・アミメキリン・チャップマンシマウマ・ワシミミズク・レッサーパンダ・コツメカワウソ・アメリカビーバー・フタユビナマケモノ・マタコミツオビアルマジロ
 
訪ねた動物園:みさき公園
 

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寛ぐツキノワグマ。わたしたちとの間にあるのは深い堀だけです。視界をさえ切るケージなどはありません。このような展示手法を無柵放養式と呼びます。20世紀の初めにドイツのハーゲンベック動物公園で取り入れられてから、いまや世界中の動物園で活用されていますが、特に郊外の広い敷地の動物園では、より自然な姿での動物展示につながります。
 
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みさき公園では斜面を利用しているため、このように見下ろしの眺めも得られます。
 
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こちらも斜面の上から。どんな動物の展示施設か、わかりますか?
 
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下からの眺め。正解はサル山です。
「おさるとんでるどでかマウンテン」
みさき公園では、いろいろな角度からの観察が可能な同園のサル山の魅力を伝えるべく、今春(2019/4)、サル山の新たなニックネームを定めてサインを掲げました。
 
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こちらは壺状のピット式。ここでも郊外型動物園ならではの緑に恵まれた景観が雰囲気を盛り上げています。ゆったりとしながらも迫力の姿を見せるのはスマトラトラのオス・パンプです(全景の写真でも左上の日陰に写っています)。よこはま動物園ズーラシアからやってきたかれは、今年で3歳になります。
 
みさき公園は1957年に開園しました。南海電鉄が創業70周年記念事業として遊園地等も含む総合的なアミューズメント施設を創ったのですが、動物園区域のプロデュースは、当時の上野動物園長・古賀忠道が手掛けています。
無柵放養式動物園も鉄道資本による郊外型動物園も戦前から造られてきた歴史がありますが、2年後の1959年に都立動物園自体の郊外への展開として開設された多摩動物公園とみさき公園を比べ合わせるとこの時代ならではの意味合いが浮かび上がってきます。
多摩動物公園は、都市型の上野動物園では限界がある広々とした空間での動物展示を目指したものです。都立動物園ですが、現在も同園に至る路線を有する京王電鉄が大きく関わっています。1964年にはガードしたバスで来園者が放し飼いのライオンの中に入っていくという世界初のサファリ形式を開発したことでも知られます。それは日本での自動車社会の展開とともに1970年代半ばから10年ほどのサファリパークの建設ラッシュにつながっていきます(※1)。
以上を考えに入れるとみさき公園は、多摩動物公園とともに、鉄道が主要交通手段だった時代の終盤を象徴していると言えます。もとよりその後の60年の間に様々な変遷・変容はありますが、いまの園内のそこここにもそのような歴史の面影を偲ぶことが出来るのです。
 
※1.これらの経緯については拙エッセイを御覧ください。
「サファリパークの歩き方」
 
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しかし、そういう歴史に敬意を払いつつも、今回は動物園としてのみさき公園が、現在形で動物たちを健康に飼育し、生き生きとした姿を展示するために積み重ねている日々の営みを中心に御紹介します。
たとえば、高台にある動物ふれあい広場では、5月半ばからはモルモットのために凍ったペットボトルが登場します。冬には赤外灯をつけて暖かくしています。。動物たちへのストレスも考えて、抱っこを伴うふれあいは土日祝日のみです。何気なく、しかしひとつひとつが動物たちへの配慮であり、そこには動物と人の関係へのまなざしがあります。そういうひとコマひとコマのいくつかを拾ってみましょう。
 
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まずはアミメキリン。アフリカのサバンナに暮らすかれらは園内でも一番広々とした平地のエリアに展示されています。
 
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現在の個体構成は仙一(オス)・音羽(メス)のペアと子どもが一頭。長男に当たる仙夏(セナ)は2018/7/8に生まれました。かれには姉で長女の羽夏(ハナ・2015/8/13生まれ)がいますが、2016年に富山市ファミリーパークに転出しています。
 
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キリンの子育てはもっぱら母子間であることもあり、仙一は普段、柵ひとつ隔てて過ごしています。しかし、音羽の状態には興味津々のようです。
 
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これは鉢に植えられたサバンナアカシアです。その葉は野生のキリンの大好物ですが、サバンナアカシアは枝に刺を生やすことで、葉を狙う動物たちに対抗しています。
 
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そこで役に立つのがキリンの長い舌です。この舌で巧みに葉を巻き取ることで、まさに植物の防衛戦略を掻い潜ることが出来るのです。こうして野生のキリンはそこここの木の葉を食べながら広大なサバンナを歩き続けます。二本指の先を固い蹄で覆った足はそのような生活に適応し、蹄はすり減るそばから延び続けてキリンを支えます(※2)。
 
※2.キリンの蹄の詳細についてはこちらを御覧ください。
「つま先立てて狩りへ」
 

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しかし、動物園の限られた空間では、かれらの生長の早い蹄は常に伸びすぎてしまう危険を孕んでいます。みさき公園の個体では特に、あまり歩き回らない音羽が注意を要し、トレーニングの技術を使って柵に横付けし、蹄の先を鋸で切るという対応が行われています。切断面を斜めにしているのは、歩く時のバランスを考慮し、普段の歩行の中で少しでもうまく削れるようにという工夫です。
 
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母親のトレーニングと蹄のケアの間、仙夏も簡単なトレーニングを受けています。子どもの頃から習慣化しておけば、メスよりもずっと大柄なおとなのオスに育ってからもかれ自身のストレスや飼育員の危険が少ない状態で健康管理できます。一見人為的なトレーニングは、動物たちが飼育下でも健康に過ごし、より的確に本来の姿や能力を現わすための必須事項なのです。
 
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続いてはチャップマンシマウマのオス・ピース。かれも柵から頭を出したかたちでの静止をトレーニング中です。やがては獣医師が同席する状態にも馴らし、前方からの採血を可能にしたいと考えています。
 
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疾走するピース、隣の運動場では、砂浴びするメスのサクラ。
 

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普段は隣り合わせで別々の2頭ですが、キリンの仙一同様、ピースもサクラを見つめる日々のようです。
 
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トレーニングと言えば、こちらもです。ワシミミズクのコウキ(性別は不詳です)は人工保育個体で、昨冬は来園者との写真撮影などを行ないましたが、そういったイベントがストレスとならないように、こうして折々に園内散歩をしながら馴らすことをしています。
 
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一方、大きなネットに覆われた展示場にいるのはコウキの父親に当たるブボです。コウキとブボの対比でワシミミズクの野生の暮らしを思い描くとともに、人慣れしたコウキを通して、なかなか間近にすることは出来ないかれらの体の仕組みをつぶさに観察してみてはいかがでしょうか。
 
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次はこちらの展示場です。あずまや風の設備やいろいろの木組みなどが見て取れます。
 
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こちらの主はレッサーパンダです。みさき公園にはオスのアルとメスのカリン、そして2頭の娘のルカが飼育されています。レッサーパンダは樹上活動が得意。細い木組みの上も滑らかに移動し、時には葉叢に紛れます。
 
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竹筒のフィーダー(給餌器)が添えられた簾は日差しが強い時に水場がゆだってしまわないように翳をつくっています。展示場の隅々まで飼育のまなざしが注がれているのです。
 
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あずまやもよじ登る対象になります。あるいはまた屋根下の隙間も休息に利用されます。
 
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そんな屋根裏潜伏の際の観察角度のガイド。どうぞお試しください。
 
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時には足先だけの登場。足の裏にびっしりと毛が生えているのは、雪深い本来の生息地で冬に活動する際、防寒と滑り止めの役を果たします。
 
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こちらは元々はクリスマスリースとして飾られたもので、葛の蔓でつくられています。これにちょっとした餌を仕込むことでつかまり立ちを誘うのですが、ルカは木組みの上から手繰り寄せます。個性の違い、そしてかれらなりの思考が読み取れます。
 
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続いてはコツメカワウソです。浮子や枝の隙間に餌が仕込まれています。水生適応したイタチ類であるカワウソは泳ぎながら巧みに餌を取り出します。能力を発揮させ採食に時間をかけさせることで、飼育下の退屈を軽減する狙いがあります。またメタボ防止も企図されています。
人間的なしぐさが人気を呼んでいるコツメカワウソですが、その器用さや俊敏さが本来はどんな役に立つのか、動物としてのかれらを理解する手がかりがそこにあります。この装置は、カワウソの飼育担当者が福岡県の大牟田市動物園で見学したインコ類への遊具タイプのフィーダーをヒントにつくられています(※3)。
 
※3.大牟田市動物園についてはこちらを御覧ください。
「モルモットにはモルモットの都合がある」
 

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当園で暮らすのはナツとリンの母娘です。こんな姿の時はその名通りに爪が小さい器用な前足の様子もよくわかります。甲高い声で愛らしく鳴くのもコツメカワウソの魅力のひとつですが、それはかれらが群れで暮らす中で発達させてきた音声コミュニケーションに由来する行動です。この2頭では、給餌前などリンが積極的に鳴きますが、母娘で戯れる際にはナツの声も聴くことが出来ます。声色の個体差は大きいながらどの個体も状況によって鳴き分けることが知られています。みなさんもリンやナツからコツメカワウソ流のコミュニケーションを習ってみてはいかがでしょうか。
 
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そんなカワウソたちの隣はアメリカビーバーです。投じられた枝をせっせと屋内に運ぶおとなビーバー。かれらにとってそれは大切な巣材です。
 
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みさき公園のおとな個体はオス1・メス2ですが、この5月に両方のメスが出産しました。生まれた時から毛も生えたおとなのミニチュアで生長が速いビーバーですが、子どもたちはあれこれと親を真似ながら、行動のレパートリーを急増させています。
 
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最後に「南米の森」を訪れてみましょう。コンパクトな施設ながらその特性を活かして、目の前でまどろむフタユビナマケモノにも逢うことが出来ます。
 
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そんな中、偶然ながら取材日(2019/06/13)に、こちらでもマタコミツオビアルマジロが出産しました。新生児を巣箱に運ぶ母親マタコ。子育ては単独で行いますが、既にベテランとのことですくすくとした成長が祈念されます。
 
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人工保育個体のアルは今年で6歳。元気に駆け回る姿を見せていました。この施設では他に今回の赤ん坊の父親に当たるミツオや、一歳半になる兄のマルチンも展示されています。
 
長い歴史を背負い、時代の曲がり角に立つかと思われる、みさき公園。生きた動物たちがいる以上、昨日を受け継ぎ、今日を過ごし、次の明日へと時間は刻まれ続けています。訪れるわたしたちもまた、そうやってつくられる新しい歴史に参加しているのです。
 
動物園に行きましょう。
 
※4.みさき公園は8月にナイトズーを催します。郊外型動物園ならでは夜の空気感が味わえるでしょう。
詳しくはこちら
 

みさき公園
 
写真提供:森由民

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