日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
- 第80回ぼぉとする動物園
- 第79回動物たちのつかみどころ
- 第78回動物園がつなぐもの
- 第77回サメのしぐさを熱く観ろ
- 第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に
- 第75回ZOOMOの動物のことならおもしろい
- 第74回それぞれの暮らし、ひとつの世界
- 第73回京都市動物園はじめて物語
- 第72回ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの名にあらず
- 第71回尾張の博物学 伊藤圭介を知っていますか
第1回 トウキョウトガリネズミ
全国の動物園を知り尽くし、その動物園にいる動物にも詳しく、各園に顔なじみの動物までいるという動物園ライターの森由民(もり・ゆうみん)さん。『edu』2015年7/8月号にご登場いただきましたが、森さんの話のおもしろさは雑誌の特集1回分には、とても納まるものではありません。ウェブ子育てカフェのオープンを機に森さんのおもしろ話を存分に書いていただくことにしました。
こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
- 今回ご紹介する動物:トウキョウトガリネズミ
- 訪ねた動物園:多摩動物公園、千葉市動物公園
何かと何かを比べる時、ついつい、大きい・速い・強いといったものに目が向いてしまいますが、たとえば「小さい動物」にも、かれらなりの世界があります。
多摩動物公園で展示されているトウキョウトガリネズミは日本のみならず世界最小級の哺乳類です(尻尾を除く体長約5cm・体重約2g)。「ネズミ」とつきますがモグラの仲間で虫などを好んで食べます。北海道
の限られた地域で水辺の草地などで暮らしています。
なお、北海道にいるのに「トウキョウ」とつくのは、最初に記録されたときに「エゾ(北海道)」と「エド(東京)」を書き間違えたのがきっかけだと言います。
こちらはカヤネズミ。ネズミの仲間では日本最小の種となります(体長5~8cm・体重7~14g)。ススキの草はらなどに住み、種子や虫などを食べます。草の葉を編んで鳥のような巣をつくります。このため、飼育下でも隠れて観察しづらいことが多いのですが、千葉市動物公園の個体は姿を見せて活動していることが多いようです。
モグラなのに「ネズミ」と呼ばれるトウキョウトガリネズミ。確かに尾が長いなど、ネズミのイメージに近いものはあります。長い尾は地面や植物の茎などの上で素早く動くときにバランスを取ってくれます。
しかし、カヤネズミと比べると、トウキョウトガリネズミは「トガリ」と呼ばれるだけの細長い鼻先をしています。それこそはモグラの仲間として虫などを主食にしている生活を反映しているのです。
体の小ささ・顔かたちや体のつくり、すべてはその動物の生活と深く関わっています。「動物園で学ぶ」とは、生きた動物たちの姿を通して、それらの知識を楽しく実感することだと思うのです。
動物園へ行きましょう。
※トウキョウトガリネズミは多摩動物公園でも飼育されています。
※記事作成にあたり、以下の本を参考にしました。
阿部永・監修(1994)『日本の哺乳類』東海
大学出版会。
◎「トウキョウトガリネズミ」に会える動物園
多摩動物公園
公式サイトhttp://www.tokyo-zoo.net/zoo/tama/
千葉市動物公園
公式サイト http://www.city.chiba.jp/zoo/
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