日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
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第7回 貉(むじな)と狸(たぬき)
こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
●今回ご紹介する動物:ニホンアナグマ・ホンドタヌキ・ホンドキツネ
●訪ねた動物園:井の頭自然文化園、東武動物公園
「同じ穴の貉(むじな)」ということわざがありますが「貉」って一体なんでしょう?
ひとつにはニホンアナグマが貉と呼ばれます(写真は井の頭自然文化園)。
アナグマはその名の通り(※)、鋭い爪を活かして、長くて枝分かれした巣穴を掘ります。
※ただし、クマではなくイタチのなかまです。
また、貉はタヌキを意味することもあります。東武動物公園ではホンドタヌキの母子5頭のなかよし家族に出逢えます。
御覧のようにタヌキも穴に入るのが好きですが、実はあまり穴掘りは得意ではありません。アナグマやキツネが掘った穴のお古や枝分かれの一部などを利用することも多いといいます。そんなわけでタヌキとアナグマは「同じ穴の貉」と呼ばれるのだと考えられています。
木のぼりもネコなどのようにはうまくはありません。がんばってはいるけれど……?
東武動物公園では「ふる里の動物たち」と名づけられたゾーンでホンドタヌキとホンドキツネが隣り合っています。キツネのエリアにも巣穴代わりの土管が置かれていますが、このようにあちこちに自前の掘り跡が見られます。
もうひとつ、タヌキはこんな動物とも重ねあわされることがあります。再び、井の頭自然文化園のツシマヤマネコです(※)。日本では西表島と対馬だけにヤマネコがいますが、かれらはアジア大陸に広く分布するベンガルヤマネコのなかまで、昔それぞれの島が大陸と地続きだった時に渡ってきて住み着いたのです。
さて、そんなヤマネコとタヌキの関係ですが、昔話の「かちかち山」には「狸」が出てきますね。しかし、この狸は兎に簡単にだまされるようなまぬけさを見せるかと思えば、おばあさんを鍋にしてしまったりもして、場面ごとに性格がちがっています。
実は古くからの中国語の「狸」は、もっぱらヤマネコなどを指していました。日本でも古くはネコのなかまに「狸」の字を当てた例があります。「かちかち山」の「狸」もそんな中国以来の感覚を受け継いで、まぬけなタヌキと優秀なハンターとしてのヤマネコをつぎはぎに語っているのではないかと考えられています。
※現在、ツシマヤマネコは全国10ヶ所の施設で飼育されていますが、そのうちの9つは動物園です。動物園はこうして希少動物の「種の保存」(繁殖を含む)に貢献しています。
日本は中国の漢字や文化に影響されながらも、島国としての独自の世界も持っています。動物たちにあてられる呼び名や漢字にもそんな文化の重なり合いが浸み込み、さらにはモデルとなった動物たちの習性や能力も映し出されています。動物園で動物たちの実際に触れながら、ことわざや昔話を味わい直してみるのも楽しいでしょう。
動物園に行きましょう。
※下記の本を参考にしました。
中村禎里(1989)『動物たちの霊力』筑摩書房
-(1990)『狸とその世界』朝日新聞社
◎「ニホンアナグマ」に会える動物園
井の頭自然文化園
情報サイトhttp://www.tokyo-zoo.net/zoo/ino/
※ホンドタヌキ・ホンドキツネも飼育展示しています。
◎「ホンドタヌキ」「ホンドキツネ」に会える動物園
東武動物公園
公式サイト http://www.tobuzoo.com/
写真提供:森由民
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