日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
- 第80回ぼぉとする動物園
- 第79回動物たちのつかみどころ
- 第78回動物園がつなぐもの
- 第77回サメのしぐさを熱く観ろ
- 第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に
- 第75回ZOOMOの動物のことならおもしろい
- 第74回それぞれの暮らし、ひとつの世界
- 第73回京都市動物園はじめて物語
- 第72回ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの名にあらず
- 第71回尾張の博物学 伊藤圭介を知っていますか
第9回 生きた化石と御長寿鳥
こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
- 今回ご紹介する動物:ハイギョ・ハシビロコウ
- 訪ねた動物園:世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふ、伊豆シャボテン公園
※水族館も広くは「動物園」の一種と捉えています。
世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふでは2016/4/10(日)まで、現在世界に生息するハイギョ類・全6種を特別展示しています(写真はオーストラリア産のネオケラトドゥス・フォルステリ)。
企画展「世界のハイギョ」
http://www.aquatotto.com/event/schedule/detail.php?id=558
ハイギョ類はシーラカンスとともに四億年以上も前から生息しており(まとめて肉鰭類と呼ばれます)、両生類を経て陸生の脊椎動物(四肢動物)に至る進化も、かれらとの枝分かれから始まったのではないかと考えられています。
現在はオーストラリア・アフリカ・南アメリカにはなればなれに分布しますが、これも、かつてはひとつの巨大な大陸(パンゲアと呼ばれます)だった陸地が離れたりくっついたりを繰り返してきた長い歴史を地球とともに生きてきたあかしと考えられています。
現生のハイギョも幼魚の時代には両生類の幼生同様に体から突き出したエラ(外鰓)を持ちます(写真はアフリカ産のプロトプテルス・ドロイの幼魚※)。そして、その名の通り、肺を持ち空気呼吸が出来ます。この能力を活かし、アフリカや南アメリカのハイギョは、乾燥する夏季には自ら出した粘液でカプセル状の「まゆ」をつくり、地面の中に隠れて過ごすことが出来ます(「夏眠」と呼ばれます※※)。
※成魚でも残存している個体はあります。
※※会場では「まゆ」づくりと夏眠から覚める様子がビデオ展示されています。
他にも、一般的な魚類とはちがって口のなかに鼻の穴が開いているといった特徴もあります。今回の企画展では、そのあたりもしっかり観察できます(写真は南アメリカ産のレピドシレン・パラドクサ)。
さらに、かれらの歯は頑丈な板状になっています(骨格標本が展示されています)。堅い貝などを与える給餌解説では(※)、水中マイクが貝殻を噛み砕く音を拾ってくれます(写真はアフリカ産のプロトプテルス・エチオピクス)。
※フィーディングウォッチ『くちゃくちゃでろ〜んタイム』。この不思議なネーミングはハイギョたちが貝や魚の肉などを食べる様子にちなんでいます。実態は、このガイドや会場で流されているビデオで観察してください。
さて、こんなユニークなハイギョたちですが、かれらを狙い撃ちして食べる鳥がいます。
アフリカに住むハシビロコウです。「動かない鳥」などと呼ばれますが、それは水辺などで獲物が来るのをじっと待ち伏せするためです。狩りの瞬間は思いがけない早業です。ハイギョもまた、その獲物のひとつで、既に述べた地中での夏眠中の「まゆ」もハシビロコウに襲われることがあるといいます。
この写真は伊豆シャボテン公園のオスのハシビロコウ・ビルです。1981年に来園したビルは、今年で、少なくとも46歳程度になる個体ですが(国内最高齢)、バケツに入れたコイを獲るときには、まさに老ガンマンの早撃ちです。
高齢のビルの飼育は、かれのペースを最優先しており、餌やりが専用ルーム(※)で行なわれることもありますが、モニター越しで見られることもあります。
※鳥たちが自由に飛ぶウォークインケージ「バードパラダイス」の一角にあります。
食事が終わり、飼育員と互いに礼。ハシビロコウは敬意や親しみを持つ相手にはこのような「おじぎ行動」をすることが知られています。
ハイギョたちの長い歴史と知られざる暮らし、それと関わるハシビロコウの生態と個体としてのビルの重ねてきた年輪。みなさんのそれぞれがどこに心を惹かれ、何を感じ取られるか、その可能性はみなさん自身に開かれています。
動物園に行きましょう。
◎「ハイギョ」に会える動物園
世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふ
企画展「世界のハイギョ」は2016/4/10(日)まで。
◎「ハシビロコウ」に会える動物園
伊豆シャボテン公園
写真提供:森由民
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