トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第69回呼びかけあいと響きあい 総合動植物公園の可能性

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第69回呼びかけあいと響きあい 総合動植物公園の可能性

ZOOたん、こと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
 
今回ご紹介する動物:カバ、グラントシマウマ、キリン、エランド、ニホンザル、パタスモンキー、マンドリル、オオタカ、ヤマトサンショウウオ、ヒメコウホネほかスイレン類(植物)、マルハチ(植物)、島バナナ(植物)、ジャイアントバンブー(植物)、アジアゾウ、テンプスキア(植物化石)、ハボロハナカセキ(植物化石)、アケボノゾウ(化石)、ケナガマンモス(化石)
 
訪れた動物園:豊橋総合動植物公園
 
豊橋総合動植物公園の愛称は「のんほいパーク」です。これは同園のある愛知県東三河地方の方言で「のん」は同意を求める時に語尾につけ、「ほい」は人に呼びかける時に使われるとのことです。どちらも、誰かに呼びかける想いをあらわしていると言ってよいでしょう。
総合動植物公園と名乗る「のんほいパーク」。今回は、そんな「のんほいパーク」で、動物どうし、あるいは、生きた動物と植物、ひいては化石(自然史博物館)が互いに呼びかけあい、響きあうさまを味わってみましょう。
 
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のんほいパークを代表する展示のひとつといってよい、広々としたアフリカ・エリア。あいにくの雨ながらカバの展示場からは、こんな眺めが楽しめます。なにやら遠くに並ぶ動物?
 
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さきほどの遠景にいたのは、グラントシマウマです。グラントシマウマの展示場とカバの展示場はつながっているわけではありませんが、来園者のまなざしの角度を計算して、間を隔てるモート(濠)などが見えないようにすることで、あたかもすべてが連続しているような「通景」を創り出しています。
 
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カバの展示では、時折こんな姿も。カバ自身がそこを寝部屋とする屋内展示場の屋根からの注水を大きく口を開けて受け止めています。
 
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そして、グラントシマウマには、実際に同じ展示場で過ごす相手もいます。緑豊かな園内を行けば……。
 
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これはさきほどグラントシマウマを遠望できた草原風の展示場の延長にあるスポットです。ここでも遠くに動物。
 
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キリンです。時には苦心して、囲われた隙間から木の葉を食べたりしながら、ゆったりと過ごしています。
 
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そんなキリンたちを高い位置から見晴らすことができる観察台です。
 
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これがその眺望。
 
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シマウマ以外にも混合飼育されているものがいます。
 
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エランドです。大型のアンテロープ(ウシ科)であるかれらは、こういったサバンナを再現したような展示にはよく似合います(※1)。
のんほいパークのアフリカエリアでは、他にもダチョウがサバンナの混合展示の一員として加わっているほか、ミナミシロサイ・ライオンからフラミンゴ、さらには夜行性の動物を集めた夜行性動物館なども併設されており、ヴァーチャル・サファリ・ツアーといってもよいような、豊かな体験の場が開かれています。
 
※1.アンテロープについては、こちらもご覧ください。
「カモシカの足、誰の足?」
また、このような混合展示との関連では、こちらもお読みいただければと思います。
「サバンナに集う」
 
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サバンナの観察台では、動物としてのキリンの特性や、アフリカ現地でのかれらを取り巻く諸問題などを知ることができるパネルが設置されています。目の前でのんびりと過ごす動物たちの向こうに、実際のサバンナを思い描き、それらもまた、この地球の上で同じ時を刻んでいる場であることを再認識できればと思います。その時、アフリカエリアの展示は、ひとつの全体的響きあいとして、わたしたちに呼びかけてくるでしょう。
 
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ほかかならぬ、この日本でも動物たちはわたしたちと共にあります。
メスのニホンカモシカ「アサヒ」は、愛知県尾張旭市で保護されました。観察するわたしたちとは、ほどほどに距離を取りつつも、ゆったりとさまざまな姿を見せてくれます。
 
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ニホンザルの展示では、全体を俯瞰できる視角とともに、この写真にも写っている、サルたちとフラットな目線の観察スポット(屋内型)ももうけられています。
解説プレートを手がかりに、群れで暮らすかれらが見せてくれる、さまざまな行動やお互いのやりとりに注目したいところです。
 
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ニホンザルの母子。
「あぁ、仲良く何を見ているのかな」と素朴な想いを抱きますが、実は「共同注視」というテーマのもと、このようなありさまを動物種ごとにどう捉えるべきかは、動物研究の大きな課題となっています。
ごく簡単に問題意識を述べるなら、それぞれの動物において、いずれかの個体がある方に顔を向けた時、別の個体がその視線に追随できるか、その時、追随する個体は相手が何を見ているのかや、それを見ている相手の意図などを了解しているのかなどが検討されることになります(※2)。
 
※2.大づかみに言えば、それぞれの動物種が同種他個体の「心」を想定し、一定の了解を創っているのか、創りあえているのかという問いです。
浮世絵に描かれた、人の母子像の「共同注視」を分析することを手がかりに、精神分析学者の北山修を中心としたさまざまな分野の研究者が行ったユニークな共同研究の論集として、下掲があります。
北山修・編(2005)『共視論 母子像の心理学』講談社
 
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のんほいパークでは、さまざまな霊長類の母子に出逢えます。パタスモンキー舎では、今年(2022)の7月と8月に2個体のメスが出産しました。
 
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母親どうし、あるいは仔と別の仔の母親などの間にも交流が見られます。そこに、ヒトでも他の霊長類でも変わらぬ母子の関係やコミュニティ(群れ)の絆を感じてしまうのは、わたしたちの心のありようとして当然ですし、それによって、かれらへの関心が高まるきっかけともなります。しかし、そこでもう一歩踏み込んで「わたしが思っている通りのことが、かれらの間で、あるいはかれらの心の中で起きているのだろうか」と問いかけてみるなら、そこには動物たちへのさらなる認識の深まりに向かい得る学びの促しがあるでしょう。
 
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9月にはマンドリルにも赤ちゃんが生まれました。わが子を抱くのは、浜松市動物園生まれ(2000年)のオヨメです(もう1個体のメスは、同じく2019年に浜松市動物園で生まれたマッチャです)。ここにも母子のありようを目の当たりに観察できるチャンスがあります。
 
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別のパドックにいますが、こちらが赤ちゃんの父親であるノエルです。2013年に福岡県の大牟田市動物園で生まれました。こうやって、さまざまな個体が園をまたいで移動しながら、飼育下での繁殖と世代継承が進められているのです。
 
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あらためて、日本産動物です。このオオタカをはじめ、多くの猛禽類は、愛知県によって保護された個体のうち、野生復帰が困難と判断されたものを、のんほいパークが引き受けて飼育展示しています(傷病鳥獣の直接の受付は県の役割で、動物園は行っていません)。
のんほいパークは昔から日本産の野鳥の飼育や繁殖で知られています。動物園の科学的な技術に加え、三河地方で伝統的に行われてきた「和鳥飼育」からもさまざまな学びがなされています。保護され、わたしたちに貴重な野生の姿を見せてくれている鳥たちに対しても、その健やかな日々を守り、時には繁殖の道を模索するなど、のんほいパークは、静かに前向きに取り組んでいます。
 
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これは、スマトラオランウータン舎の屋内に設けられた両棲類・爬虫類の展示の水槽の一部です(展示場所については、今後の変動の可能性があります)。かたや昼間の状態のまま、かたや試験的に暗い状態を創り出していますが、同じ動物の展示です。今回の取材(2022/9/16~18)では、残念ながら姿を見せてくれませんでしたが……
 
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これらの水槽の主はヤマトサンショウウオです。ヤマトサンショウウオは愛知県以西、近畿地方に及ぶ分布域を持つ小型両生類ですが、愛知県では渥美・知多・尾張・西三河地方の丘陵部に生息します。水辺環境の悪化とともに生存が脅かされ、愛知県から絶滅危惧種に指定されています。
 
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こちらは園のブログからお借りした写真です(※3)。園のスタッフは、のんほいパークでの飼育展示開始前から、野生でのヤマトサンショウウオの調査活動にも参加していました。それを基盤としつつ、地元の貴重な在来動物の保全と研究に貢献することを目指して、現在の展示が開始されました。
ヤマトサンショウウオは、その絶滅の危機も含めて、三河地方の人びとの生活や歴史と深く結びついています。のんほいパークは、訪れるわたしたちにそのことを伝え、あらためて動物たちや自然環境と、わたしたちの不可分のつながりにまなざしを向けることを呼びかけていると言えるでしょう。
 
※3.「守れ!渥美半島のヤマトサンショウウオ – うちのバックヤードのチラ見せ」
 
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ここで「総合動植物公園」の所以、併設された植物園ゾーンに足を運んでみましょう。間歇的な噴水が爽やかな広場は、いわゆるフランス幾何学式庭園です。植物や設備の整序された配置によって、幾何学的なデザインをするように美しい全体が造り出されています。
 
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そこから足を踏み入れると日本庭園です。日本庭園には周遊式の伝統があります。コンパクトな空間ながら、自然の要素とその組み合わせによって、実際の野外を散策する感覚を創り出しています(※4)。
 
※カバの展示エリアで紹介した、モートを活用し、余計な檻や柵を排した動物園展示の手法も、イギリスにおいて、同じく田園の再現を目指して18世紀を中心に発展した風景式庭園で、シカを放し飼いにして観賞する工夫から派生してきたとされています。シカのいるエリアと庭園(つまりは館)のホストやそこを訪れたゲストなどが散策する園路の間に、シカが飛び越えたり登り出てきたりできないモートを設けたのです。この手法は「ハハー」と呼ばれており、それを応用した動物園展示は「無柵放養式」と名づけられています。
若生謙二(2010)『動物園革命』岩波書店
 
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日本庭園の水辺を彩る、スイレン科のヒメコウホネ。コウホネ(河骨・川骨)の名は、水中を這う根茎を骨に見立てたことによるとされますが、その根茎からこのような花が顔を出します。水生植物であるコウホネ類は水辺環境の影響を大きく受け、環境省レッドリスト2020では「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されています。
 
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こちらもスイレンをフィーチャーしたゾーンです。フランス印象派の画家であるクロード・モネはパリの自宅の庭の池に咲く「睡蓮」を描いた連作で知られていますが、豊橋市はそのモネの庭を管理する財団から、庭を彩るスイレン・ヤナギ・フジなどを寄贈されており、それらを配した景観がこの一帯ということになります。さきほど、ご紹介したヒメコウホネもスイレン科でした。日本とフランスそれぞれでのスイレンとそれをめぐる環境や人びとの文化・暮らしを比べ合わせてみるとよいでしょう。
 
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再び、広場に戻りました。整えられた花壇の向こうに大温室が見えています。
 
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大温室のアプローチであるトンネルを抜けると、木生のシダ類をはじめとする熱帯・亜熱帯の森の姿が広がります。温帯圏のシダはもっぱら地中に地下茎を広げ、そこから出て地上に姿を見せる葉が、わたしたちがふだん見かけるシダということになりますが、熱帯の森では、茎は「幹」状に直立し(※4)、そこから葉が伸びて繁ることになります。
 
※4.この「幹」は樹木のように肥大成長するわけではないので、現生の「木生シダ」は厳密には木ではありません。なお、かつての地球で繁栄し、森を成していたシダ類については、後でご紹介する園内の自然史博物館で、貴重な化石標本を観察しながら学ぶことができます。
 
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そびえたつのは、亜熱帯である小笠原諸島の固有種の木生シダ「マルハチ」です。
 
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葉が落ちた「幹」に残る維管束(水分・栄養分の通路)の痕が「逆八の字」に見えるのが名の由来です。
 
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こちらは島バナナの実り。マレー半島原産ですが、古くに琉球列島に伝わり、在来品種として栽培されてきました。
 
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マルハチ以上の迫力でそびえたつジャイアントバンブー。30メートル以上になることもあると言います。
 
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そのジャイアントバンブーを伐採してつくったのが、この「スリットドラム」です。大温室の横の通路に展示されています。ジャイアントバンブーは熱帯アジアの植物ですが、人類はアジア・アフリカひいては南アメリカなどの広い地域で、古くから中空な竹や中をくりぬいた木などを活かして打楽器を造ってきました。「スリットドラム」はその総称です。いまでもヨーロッパを含む世界各地で愛好されています。
 
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再び、温室内。ここでもスイレンの池に出逢うことができました。
 
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そして、目の前に開けるのは、青空と水にはさまれた光景です。のんほいパークのアジアゾウの飼育展示施設は、展示場面積が計6,000㎡と国内最大級で、全6個体という飼育数も日本最多です(2021/7現在※5)。ゾウは血縁をベースとしてメスの群れをつくるので、のんほいパークでも4個体のメスは一緒に暮らしています。このような群れによる日常生活が、それぞれのゾウの社会性を育み、また、出産の折なども群れでのケアが見られるとされているので、アジアゾウの飼育には、健全なメスの群れの構成・維持が必須となります。
 
※5.園による解説もご覧ください。
 
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地上部は広いだけでなく、土ならではのゾウにとっての快適さが保障されています。
 
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大きな体もどっぷりと浸けられる水場。ゾウ(長鼻目)の祖先は北アフリカの水辺で進化したことがわかっています。その頃のゾウは半水生というべき生態を持っていたようです。そう記すと、長い鼻をシュノーケルにして、浮力の助けで大型化といったストーリーが思い浮かびますが、当時の長鼻目の体はいまほど大きくなく、たとえば3500万年ほど前の北アフリカに生息していたメリテリウムはブタほどの大きさで、吻(鼻先)もバクくらいの突出だったとされます。しかし、水圧の抵抗で胸郭の骨が発達し、それは陸生が強くなって大型化しはじめた、後のゾウの体を支え、大型となったゾウは食事や飲水などの必要に迫られて、長い鼻で適応する進化を遂げたのではないかと考えられています(※6)。
 
※6.下記を参照しました。
甲能直樹(2013)「ゾウの仲間は水の中で進化した!?―安定同位体が明らかにした長鼻類の揺籃」豊橋市自然史博物館研報 Sci. Rep. Toyohashi Mus. Nat. Hist., No. 23, 55–63
 
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隔てられてはいますが、水場どうしの交流。奥にいるのは、1971年生まれのオス「ダーナ」です。ゾウのオスは性成熟の始まりに向けて、生まれ育った母系の群れを離れますが、その後、単独生活をベースとしつつも同じようなオスどうし(年かさの個体も含む)での関わりなどを持ちつつ、やがては別のメスの群れと関係ができて、その中の発情したメスと交尾するようになります。ダーナの存在は、のんほいパークのメスたちにそういうおとなオスのありようを実体験させてくれているでしょう。それは、ダーナにとっても飼育下での社会的な補いになっているはずです。
 
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さて、ここで少し、ゾウの展示場を離れます。ここに示したのは、2種類の植物の化石です。
楕円形のものは、アメリカ・オレゴン州の白亜紀の地層から発掘されたテンプスキアです。テンプスキアは木生シダ類とされますが、このいわゆる「幹」の部分は一般的な樹木とも、さきほどご紹介した現生の木生シダともちがい、たくさんの本来は根茎だったものが直立しながら、無数の根を出して絡みあって、あたかも一本の木の幹のようなかたちを造り上げています。
もう一方は、北海道羽幌町の白亜紀の地層から発見されたハボロハナカセキです。現生のモクレンに近い、多数のめしべが集合した状態が観察され、「被子植物」の初期の姿を教えてくれる貴重な化石です(※7)。
 
※7.種子をつくる植物のうち、その種子となる胚珠が子房に包まれているものを被子植物、胚珠がむき出しのものを裸子植物(マツ・ソテツ・イチョウなど)と言います。これらの植物の構造・生活・進化については、たとえば、以下のようなものが参考になるでしょう。
西田治文(1998)『植物のたどってきた道』日本放送出版協会
新関滋也(1971)『一億年の旅―花の中の秘密』筑摩書房
 
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これらの化石は、のんほいパーク内にある豊橋市自然史博物館の展示です。同館には、化石ゾウの全身骨格も展示されています。こちらは250万~100万年前に東北から九州にかけて広く分布していたアケボノゾウ(日本固有種)です。アケボノゾウはアジアゾウやアフリカゾウが属するゾウ科とは別のステゴドン科に属しますが、いずれにしろ現在の北アフリカで生まれたゾウ類(長鼻目)の共通祖先からユーラシア大陸に分布を広げた系統のひとつとなります。
 
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こちらはケナガマンモス。マンモスはゾウ科に属し、アフリカゾウと枝分かれした後、さらにアジアゾウと枝分かれした系統となります。つまり、アジアゾウに近い化石ゾウで、マンモスとアジアゾウをひとまとめにしたグループが、さらにアフリカゾウとの共通祖先を持つということになります。
動物園は、生きた動物たちの姿を観察できる得難い場所ですが、現生の動物たちのありようには、かれらの祖先がどんな地域のどんな環境にどのように適応し、同種の他個体や他の動植物とどんな関係をつくってきたかの進化の歴史があります。自然史博物館の展示の助けを得ながら、そういう長い時空からの響きあいにも耳を傾けてみたいと思います。
 
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のんほいパークには、もう1個体、オスのアジアゾウがいます。年かさのダーナと鼻を絡めるのは2011年生まれのドローナです。年齢から言えば、ドローナが次世代に向けてのメインの繁殖オスとなっていくことが期待されますが、かれも隣り合う「おじさん」や「おばさん・ねえさん・おじょうさん」たちから社会的刺激を受けつつ、少しずつオスとしての振る舞いやメスへの接し方を熟達させていくことでしょう。
 
のんほいパーク、豊橋総合動植物公園では、動物園ゾーンにとどまらず、植物園・自然史博物館をも含めて、時や空間をダイナミックに横断した、さまざまないのちの交錯が実感できます。そこには、動物と人の関係やわたしたち人類の歴史も映し出されます。そのすべてを満喫するなら、わたしたちはあらためて、博物館(動物園・植物園を含む)体験とは何か、わたしたちの社会が博物館を持つことの意義とは何かを見つめなおすことができるでしょう。
 
動物園で呼びかけあい響きあいましょう。
 
豊橋総合動植物公園
 
写真提供:森由民(注記したものを除く)

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