日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
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第22回 寒い冬だから
こんにちは、ZOOたんこと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
●今回ご紹介する動物:カピバラ・ミーアキャット・オランウータン・チンパンジー・レッサーパンダ
●訪ねた動物園:埼玉県こども動物自然公園・伊豆シャボテン動物公園・福岡市動物園・長野市茶臼山動物園
今回は冬をしのぐあれこれの工夫、さらには冬ならではの動物たちの姿をご紹介します。
寄り添いあうのは温もりを求めるのにふさわしい行動です。ましてや温泉ならば。
埼玉県こども動物自然公園(以下、SCZ)では毎冬、カピバラ温泉を実施しています(※)。
※今季は2017/3/31まで、詳しくは下掲リンクを御覧ください。
http://www.parks.or.jp/sczoo/event/index.html?list1119
中には修行に励むものも……?若い個体・小型の個体がこの行動を好むということなので、やはりからだを温める目的なのでしょう。
カピバラの露天風呂は1982年に伊豆シャボテン動物公園で始まりました(2014/12/26撮影)。そこには「冬のあいだ、せめてお湯で温まってほしい」という飼育スタッフの想いが込められています(※)。
再び、SCZ。伊豆シャボテン動物公園は2013年に長崎バイオパークと「カピバラの露天風呂協定」を結びました。2015年にSCZと那須どうぶつ王国も加わり、カピバラとそのファンのために毎冬に露天風呂を催すとともに、この試みがさらに広がるように努めることを約束しあっています。
奥にわたしが写り込んでいます。御覧のように「足湯」を楽しみながらカピバラを観察するメニューもあるのです(※)。
※有料。詳しくは前掲のリンクを御覧ください。この写真は一般入園者として伺ったときですが、このようにスタッフにお願いすれば記念撮影もできます。
足湯には入湯の記念品と証明書もあります。
さらに太陽熱による床暖房を施し、カピバラを来園者の間近で休息させる試みも行なわれています。
温熱スポットと言えば基本は発熱灯。ミーアキャットは「太陽崇拝者」と称されることもあり、日々、陽の光でからだを温めては活動しますが、こんな装置があれば、冬の悪天候でも仲間とのんびり過ごせます。
こちらは福岡市動物園。本来の生息地でもあるボルネオ島で生まれ、日本にやってきたオランウータンのメス・ドーネもお気に入りの毛布とホットスポットで冬の日を送っています。ウィンドウ越しにそっと目と目の会話を試みてみてもよいでしょう。
さらに同園ではチンパンジーに風邪予防のネギも与えています。意外と口に合うようです。ネギと陽だまりで風邪知らずというところですね(※)。
※まるで「手が四本」という感じの後肢にも注目です。チンパンジーが樹上生活に適応しているのがよく分かります。
寒い冬。しかし、それを厭う動物ばかりではありません。こちらは長野市茶臼山動物園の屋外展示「レッサーパンダの森」です(2014/2/5撮影)。黄色い矢印のところにレッサーパンダがいます。それを目安にしても、そんなに広大な施設ではないのはおわかりでしょうが……
中に踏み入ると、なぜか広く感じます。園路をカーブさせたり丘を設けたりして行く手を隠すことで、実際よりも空間の広がりを思わせるという心理効果の技法です。
レッサーパンダは本来、冷涼な高地の動物です。日本でも暑い夏は苦手ですが、雪が降り積もる信州の冬は、むしろ得意とするところです。かれらは、鋭い爪やふさふさでバランス操作に優れた尾、しなやかな肢体を活かして木のぼりも巧みに行ないます。こんな風景に出逢えれば、まさに「気分は四川」でしょう(※)。
※運動場にあるのはレッサーパンダが登っている木のみで、後ろの森は園がある山腹の木々の「借景」です。「レッサーパンダの森」は、植栽等を活かして動物たち本来の生息環境の景観と条件を再現し、来園者にもまるで「野生の空間」に踏み入ったかのように感じさせる「生息環境展示」の手法で構成されています。この手法については、稿をあらためてご紹介したいと思います。
日本はおしなべて四季の変化に富んだ土地柄です。それだけに熱帯産などの動物園動物たちには冬を健やかに過ごしてもらう配慮が必要です。また、雪や寒さに適応して進化してきた動物たちには、その強みを発揮してもらうことこそがかれららしさの展示となるでしょう。動物園はそこで暮らすすべての動物たちの生き生きとした姿を来園者と分かち合うべく工夫を重ねています。
動物園に行きましょう。
◎「カピバラ」「ミーアキャット」に会える動物園
埼玉県こども動物自然公園
公式サイト
伊豆シャボテン動物公園
公式サイト
※伊豆シャボテン動物公園でもミーアキャットを展示しています。
◎「オランウータン」「チンパンジー」に会える動物園
福岡市動物園
公式サイト
※伊豆シャボテン公園でもチンパンジーを展示しています。また、長野市茶臼山動物園でもチンパンジーとオランウータンを展示しています。
◎「レッサーパンダ」に会える動物園
長野市茶臼山動物園
公式サイト
※レッサーパンダは埼玉県こども動物自然公園・福岡市動物園でも展示しています。
写真提供:森由民
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