トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第32回しらとりは同じからずや(ガン・カモ・ハクチョウ)

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第32回しらとりは同じからずや(ガン・カモ・ハクチョウ)

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。

 

今回ご紹介する動物:コブハクチョウ・マガモ・サカツラガン・コクチョウ・クロエリハクチョウ・オオハクチョウ

 

訪ねた水族館:狭山市立智光山公園こども動物園・釧路市動物園

 

chikosan_180116 (401)狭山市立智光山公園こども動物園。園内の池ではさまざまな水鳥たちが暮らしています。

 

chikosan_180116 (408)池のほとりの木陰で憩うのは、くちばしの付け根のこぶが特徴的なコブハクチョウです。

 

chikosan_180116 (705)chikosan_180116 (800)水面での優雅な姿。時折の激しい動きは、かれらの大きさを印象づけてくれます。

 

chikosan_180116 (524)pハクチョウはガンカモ類としてまとめられる鳥の一種です。
ガンとカモ、どちらもよく耳にすることのある鳥の種類であると思いますが、これらに、はっきりと区別があるわけではありません。ガンカモ類のうち、比較的小型のものがカモと見なされる傾向があります。先程のコブハクチョウの写真にも一緒に写っていたマガモは、わたしたちにとって最も身近なカモのひとつと言えるでしょう。

 

chikosan_180116 (406)一方、こちらはサカツラガン。ユーラシア大陸北東部で繁殖し、冬には南下する渡り鳥です。日本でも不定期にですが、越冬個体が見られます。ガンと見なされることから分かるように、かれらは大型のガンカモ類です。
そして、ハクチョウとは特に大型のガンカモ類に与えられた名前なのです。

 

chikosan_180116 (457)さてではこちらはどうでしょうか。黒い……ハクチョウ?まさにその通りの名を持つコクチョウ(黒鳥)です。
たとえば、ホワイトタイガーは全身が白地で目がアイスブルーになったベンガルトラの白変個体です。つまり、種としてはトラそのものです。同じように、シマヘビにも黒変個体であるカラスヘビが知られています。では、コクチョウはハクチョウの黒変個体なのでしょうか。
答えを言うならちがいます。コクチョウも大型のガンカモ類で、その意味ではハクチョウのなかまです。実際、コブハクチョウもコクチョウも種のひとつ上のレベルの分類では、同じハクチョウ属にまとめられます。しかし、まったくの別種です。分布としてもコブハクチョウはヨーロッパ西部~シベリア南部のユーラシア大陸の鳥であるのに対し、コクチョウはオーストラリアの鳥です。すなわち、互いにある程度は近縁ながら、異なる地域・環境に適応して進化してきたという関係にあるのです。

 

chikosan_180116 (549)コクチョウは漆黒の羽の下に、はっと目を惹く白さを隠しています。しばし立ち止まって、観察してみてください。

 

chikosan_180116 (379)では、この鳥は?同じくハクチョウ属ですが、ハクチョウとコクチョウの雑種ではありません。南アメリカのクロエリハクチョウです。智光山公園こども動物園では地球上に広く分化したハクチョウ属3種を観察できることになります。
 

釧路市120518 291p最後はこの鳥です。コブハクチョウ?くちばしがちがうので、そうではないのははっきり分かりますね。かれらは釧路市動物園のオオハクチョウです(2012/5/18撮影)。そして、かれらこそが日本人にとって古くから馴染み深いハクチョウなのです。シベリア方面で繁殖し、冬に北海道・東北を中心として南下してきます。
現在、日本各地の水辺でコブハクチョウの姿を見ることが出来ますが、例外的な記録を別にすれば、かれらは日本を定期的に訪れる渡り鳥ではありません。国立環境研究所によると1950年を皮切りに人の手で持ち込まれて、国内の分布を広げていることが分かっています。いまのところは日本の環境やそこに本来生息する生きものなどに著しい影響を与えるといった報告はないようですがコブハクチョウのいる風景が人の手によるごく最近の歴史的変化であることを忘れてはならないでしょう(※)。
 
※下掲リンクを参考にしました。
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/20010.html
なお、日本に定期的に渡ってくるハクチョウには、オオハクチョウのほかコハクチョウもいます。

 

釧路市120518 283釧路市120518 281こちらは先程のオオハクチョウの写真と同じ日の同じ釧路市動物園内の池のほとりです。写真の個体は園が飼育しているものですが、この池には野生のオオハクチョウも渡ってくること、それを前提に鳥インフルエンザ対策としてしばらくオオハクチョウが屋内に収容されていたことが解説されています。
智光山公園こども動物園でも今年(2018年)は1/9から、飼育している鳥類への鳥インフルエンザ感染予防のため水鳥への餌やりを中止しています。
動物園では、こういったさまざまな対応も必要になります。しかし、動物たちの多様性を知って人の手による不用意な攪乱を避けること、感染症のような事態に適切な対策・警戒をしながらも知識を分かち合って過剰反応はしないこと。それらすべてが人と動物の適正な関係や距離について、わたしたち自身が動物園で考え思い定めていく営みの契機となるでしょう。

 

動物園に行きましょう。

 

☆今回取材した館

 

◎コブハクチョウ・マガモ・サカツラガン・コクチョウ・クロエリハクチョウに会える動物園
狭山市立智光山公園こども動物園

 

◎オオハクチョウに会える動物園
釧路市動物園
※釧路市動物園でもマガモを飼育展示しています。

 
写真提供:森由民

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