トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
 
今回ご紹介する動物:コツメカワウソ、ハシビロコウ、ミゾゴイ、シロクロゲリ、ベニハチクイ、ティラピア
 
訪れた施設:神戸どうぶつ王国
 
☆以下の取材は、2023/9/29~30に行いました。
 

〇コツメカワウソ、すいすいきゅうきゅう
 
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見つめ合う、人の群れとコツメカワウソの群れ。
 
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給餌しながらのガイド「オッタートーク」の時間です(※1)。
 
※1.詳しくはこちらをご覧ください。
 
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きゅうきゅうとにぎやかな声も聴こえます。コツメカワウソは南アジアから東南アジアに分布し、オスメスのペアとその子を中心とした群れをつくります。12種類以上の音声を使い分けてコミュニケーションしていると考えられています。
 
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野生のコツメカワウソは器用な手先で甲殻類や魚などを捕らえて食べます。各地の動物園・水族館で飼育員の丹精による「遊具」などが創られ、コツメカワウソたちがその器用さを活かしながら飼育下の時間を過ごせる工夫がなされていますが、その姿の向こうにはコツメカワウソたちの生態があるのです。
 
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神戸どうぶつ王国の「オッターサンクチュアリ ~コツメカワウソ生態園~」は東南アジアの湿地帯をイメージした飼育展示施設で、コツメカワウソの公開施設としては国内最大の面積です。この施設はコツメカワウソたちが本来適応してきた環境を再現することで、コツメカワウソたちの習性や能力を引き出し、野生に近い生活を展示することでわたしたちにコツメカワウソがどういう動物かを認識させてくれます。繁殖もこの池の繁みで行われました。
現在の群れのメンバーは9個体です。互いの姿が見えないことも多い環境は、コツメカワウソならではの音声コミュニケーションの活発化につながっているようです。
 
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オッターサンクチュアリの出入口は隣接していますが、植栽の工夫で互いが見えないようになっています。神戸どうぶつ王国はポートライナー(神戸新交通ポートアイランド線)の計算科学センター駅(神戸どうぶつ王国・「富岳」前)のまさに「真ん前」にある都市型動物園ですが、オッターサンクチュアリでは植栽をはじめとした細やかな施設設計でそれらの人工物を隠しており、わたしたちはランドスケープ(景観)に没入する感覚を堪能できます。
 
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気ままに振る舞うカワウソたち。泳いだ後にはこうして岩や草などで体を拭って乾かします。
 
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植え込まれたヨシの繁みの蔭は、ちょっとした観察の穴場です。そっと覗いて、カワウソたちの生活のありさまを楽しみましょう。
 
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時にはイルカ顔負けに跳ねるように泳ぐ姿や(先を急いで勢いづいたときなどに見られるようです)、群れならではのあれこれのやりとり。一部ではペットとしての人気を得ているコツメカワウソですが、既に記したようにその可愛い鳴き声もしぐさも元々はカワウソどうしでの必要不可欠な社会的能力です。そのことを体感することから始めるのが、コツメカワウソと向き合うことだと言えるのではないでしょうか。
 
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オッターサンクチュアリには観覧路の橋で区切られるかたちで、独立したサブ・スペースがあります。現在、こちらにはメインの群れとは別にペアが飼育展示されています(2023/5/13撮影)。群れに比して静かな暮らしですが、その分、2頭それぞれのマイペースぶりと折々の仲睦まじさをゆったりと観察することができます。
 
〇ハシビロコウは泰然と?
 
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緑豊かながらも動物の姿はないかと思われる眺め。
 
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しかし、奥の繁みにはメスのハシビロコウ・マリンバが佇みます。先ほどの全景写真でも姿は確認できるので探してみてください。
後述のように、この施設「ハシビロコウ生態園 Big bill(ビッグビル)」をテリトリーと認識して落ち着いてもらうために、マリンバは24時間、ここで暮らしてもらっています。
 
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ハシビロコウと言えば「動かない鳥」というキャッチ・フレーズが一般的です。
しかし、その姿の生態的意味は、もっぱら水辺で獲物となる魚を待ち伏せるというもので、「Big bill」に同居するサギの仲間ミゾゴイなどにも共通のものです。ハシビロコウのたたずみは、その体の大きさから特に目立ちますが、鳥たち自身にとっての意味を知ることは、鳥たちの世界へのさらなるアプローチとなるでしょう。
 
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そして、こちらはオスのボンゴ。
 
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展示の入口の上に泰然と立ち、何気なく振り返る人を慌てさせもします。
 
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高らかな一声?いいえ、ハシビロコウはごく低い空気音のようなもの以外は声を発しません。代わりに、くちばしを小刻みに叩き合わせるクラッタリングで己の存在を主張します。
 
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そして、飛翔。これはボンゴにとって決してレアな行動ではありません。いまの彼には、水辺で魚を待ち伏せる以上の関心事があり、いつまでもじっとしてはい難いのです。
 
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降り立ったのは乾草を積み上げた島。何やら物色の様子です。
 
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セレクトしたと思しい草を運び、何やら整えています。これは巣づくり行動の現われと判断できます。
 
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そして、熱い(?)まなざしを送る先は、
 
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繁みの中のマリンバです。
 
ハシビロコウの飼育下繁殖はベルギー(2008年)とアメリカ(2009年)の2回しか成功していません。希少な野生動物の保全の手立てのひとつとして、世界中の動物園や研究者がハシビロコウの繁殖のメカニズムを探究しています。
ハシビロコウは単独生活を送る動物で、自分の行動圏の確保に敏感です。たとえ繁殖の可能性のある異性でも無条件の接近は許しません。ここでもボンゴは巣づくり行動で自分のオスとしての能力を示しながら、なんとかマリンバに近づきたいと機会を窺っています。マリンバを施設内に24時間滞在させているのも(ボンゴは朝夕に飼育員がバックヤードと出し入れします)、彼女に施設内をテリトリーと認識させて安心させ、結果として落ち着いてボンゴのオスとしての魅力を品定めさせようという配慮なのです。
また、野生のハシビロコウの繁殖については雨季と乾季のリズムが影響しているのではないかとも考えられています。アフリカの生息地では雨季になって魚を豊富に捕食したオスの生理的なテンションが上がり、繁殖に向けての行動が引き出されるのではないかということです。どうぶつ王国では温室施設の強みを活かして、散水機による雨季の創出を行っています。直近では2023年の4月から7月末にかけてを「雨季」としました。これが効果的だったのか、9月初旬からボンゴの巣づくり行動が見られるようになりました。
謎の多いハシビロコウの生態。すべてはいまだ手探りですが、マリンバとボンゴのよき将来を祈念するとともに、こうした飼育下の試みが、動物学的にも貴重な知見となっていくことを期待します。
 
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俺の空に翼広げ、おまえという未来へ(※2)。
 
※2.どうぶつ王国でのハシビロコウへの取り組みの経緯については、こちらの記事もご覧ください。
「二つのどうぶつ王国」
 
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ミゾゴイ同様、「Big bill」の同居者、シロクロゲリとベニハチクイ。モノトーンのすっきりしたありさまも、メタリックを加えたカラフルな容姿もいずれ劣らぬ魅力で、ハシビロコウたちの日常を観覧する傍らに、これらの姿も尋ねてみていただければと思います。
 
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鳥たちの日々を静かに見守るティラピア?たまにはハシビロコウの食卓も飾っているようですが。
 
○その水辺に
 
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再び、オッター・サンクチュアリのひととき。あいかわらずのカワウソ団子。
 
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カワウソたちは木にも登ります。これも誰かが試みはじめると、他の個体も集ってくる流れがあるようです。
 
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ところどころに渡された倒木はカワウソたちの憩いの場であるとともに、泳ぎ以外での移動の選択肢ともなっています。
 
既にご紹介した、群れとペアの仕分けなども含め、カワウソたちの状況に合わせた対応ができるようにしておくことが飼育展示施設として大切です。群れが暮らす広い島池にしても、ただ仲よく賑やかにというのではなく、もしももめごとが起きたとき、カワウソどうしがエスカレートを回避して距離を取れるだけの広さがあるか、個体の数やそれぞれの性格を見極める飼育的まなざしに包まれてこそ「カワウソ自らによる自然な暮らし」が成り立つのです(※)。動物園は「暮らしの場」です。
 
※「オッターサンクチュアリ~ コツメカワウソ生態園~」はエンリッチメント大賞 2023「環境再現賞」を受賞しました。
くわしくはコチラ
 
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少しだけ特別出演。「熱帯の森」エリアのヒロハシサギです。中央アメリカに生息し、ハシビロコウ同様にクラッタリングで自己主張します。ハシビロコウのくちばしはオランダの木靴に見立てられますが(英名・Shoebill)、ヒロハシサギは「ボートのくちばしのサギ」(Boat-billed heron)と呼ばれます。お見知りおきの上、お比べください。
 
写真提供:森由民
 
神戸どうぶつ王国

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