横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。
- 第20回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(後編)
- 第19回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(中編)
- 第18回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(前編)
- 第17回言葉によるコミュニケーションが苦手なJくん
- 第16回コミュニケーションが苦手なIくん
- 第15回自分から友だちの中へ入っていかないHちゃん
- 第14回言葉は少ないけど数字や文字に興味があるGくん
- 第13回言葉で伝えることが苦手なFちゃん
- 第12回ノーマライゼーションのひろがり
- 第11回インクルーシブ保育とノーマライゼーション
第12回ノーマライゼーションのひろがり
子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。子どもの「できない」ことに目を向けるのではなく、今「できている」ことに注目してみることが肝心です。
このシリーズでは、子育ての中で思わず「あるある!」と感じる、子どもたちのいろんな行動について、周りの大人はどのように寄り添えばいいのか、紹介していきます。気軽に読んでみてください。
前回、「ノーマライゼーション」についてお話しました。日常生活においてさまざまな困難さや弱さを感じている子どもに対して「全ての子どもを受け入れる保育」であるインクルーシブ保育、障がいがあることにより個別に支援が必要なニーズへの対応も行いつつ、どの子も排除しない教育や保育を実現することを目指すことがノーマライゼーションの理念です。
今回は私が幼稚園で出会った子どもEくんのエピソードを紹介します。
Eくんは年中の男の子です。年少の時に比べて言葉の単語数も増えていました。クラスの活動の流れも理解できるようになり、年少のころのような大泣きが減っています。言葉は不明瞭ですが、一生懸命に話をする姿がみられますが、友だちとのかかわりは一方的になってしまう傾向があります。
ある日のこと、朝の集まりが終わり、「フルーツバスケット」が始まりました。先生の持っている絵カードを見て、Eくんはたどたどしい発音で、「も・も」と言いました。ゲームで使う絵カードの果物の名前は理解しているようです。「フルーツバスケット!」の合図で、椅子に座れないと「鬼」になるルールもわかり、鬼になると恥ずかしいとも感じているようで、必死に椅子に座ろうとする様子が見受けられます。
ゲームが進み、最後の「フルーツバスケット」の回になりました。最後に残ったのはEくんと私でした。後ろからあわてて座ろうとするEくんに、まったく私は気が付かず思わず座ってしまい、Eくんが残ってしまいました。Eくんが「残念チャンピオン」になってしまいとても悔しかったようで、私に頭を何度もぶつけてきました。大泣きするかと心配しましたが、すぐに気持ちを切り替えられ、次の活動に参加することができました。
Eくんはゲームの細かなルールを理解していなかったようです。しかし、このクラスではEくんを交えて一緒にゲームで遊びます。絵カードのヒントや先生の自然な声かけで、Eくんも果物の名前を言うことができ、ゲームを楽しみます。Eくんは緊張したり照れたりもするのですが、こういった反応もほかの子と一緒です。みんなと一緒にゲームができる楽しさをEくんは満喫しているようでした。
友だちもEくんのことを理解し、Eくんも友だちと一緒の楽しさを味わっていました。友だち同士のいさかいやぶつかり合いもありますが、それも“同じ友だち同士のこと”と、先生は温かく見守っているようです。障がいからくる困難さがEくんにはあります。しかし、園のなかで先生たちはさりげなくサポートしてEくんを支え、障がいによる不便さを感じさせない保育に取り組んでいます。必要な支援もし、障がいによる不公平がないようノーマライゼーションを実践する例だと思いました。
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