トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第15回自分から友だちの中へ入っていかないHちゃん

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第15回自分から友だちの中へ入っていかないHちゃん

子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。子どもの「できない」ことに目を向けるのではなく、今「できている」ことに注目してみることが肝心です。
このシリーズでは、子育ての中で思わず「あるある!」と感じる、子どもたちのいろんな行動について、周りの大人はどのように寄り添えばいいのか、紹介していきます。気軽に読んでみてください。

 

私がHちゃんに出会ったのは、ある年の秋頃でした。年中児のHちゃんは、幼稚園に入園する前に数回の入退院を繰り返していました。意欲的にクラスの活動に参加することは少なく、朝の支度は一つひとつ保育者が声をかけないと進みません。誰かに振り向いてもらいたいという気持ちもなく、立ち尽くしている状態です。また、友だちや遊びに対する関心も低く、自分から遊びたいことを見つけて過ごすこともありません。自分の思いや感情を表現することがないように感じられました。年中になって半年が経っても、自分一人で何かをしようという動きはなく、人の多さや周りのスピード感に圧倒されている様子です。
 
自分から「入れて」「やりたい」と言葉にして言えない子どもでも、表情や動きなどで小さなサインを出しているかもしれません。遊びに関心を示さず、自分から他の子どもにかかわることがないというHちゃんでしたが、サインが少なくても何かに興味や関心を示すことはあるのではないでしょうか。
そっとそばに来て座っていたり、友だちのことをずっと見ていたり、想いや感情の出し方は様々ですが、その行動のなかに隠れている小さなサインを読み取りHちゃんの想いを感じることが大切です。
 
周りのスピードに圧倒されているHちゃんがリラックスして楽しむために、人数や年齢などを考えて、保育者がリードして遊びを楽しむことも良いですね。3、4人の友だちの中で周りの友だちの活動や遊びの様子や笑う表情を近くで見ているうちに、無意識のうちに力が抜けて自然と言葉で気持ちを伝え合うこともでてくるでしょう。そのためには、状況ごとに遊びやメンバーを変えるなど工夫をしていくことが大切です。固定したグループを作って決まりごとのように遊ばせようとするのではなく、あくまでもHちゃんが楽しむために自然とその場で作られていく仲間であり、遊びの様子によって流動的に変化していくものです。手遊び歌やリズム遊びなど、簡単に口ずさめるような歌遊びや、具体的にイメージをしやすい遊びを繰り返し行ってみます。その場は子どもたち数人しかいないような静かな場所であり、子どもたちと保育者だけが楽しんでいる。そして、保育者が常に自分を支えてくれているとHちゃんが実感できていることが重要になります。少人数のかかわりからスタートし、Hちゃんが少しずつクラスの雰囲気に慣れて安心して楽しく過ごせるようになるといいですね。

記事一覧

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。