トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第11回インクルーシブ保育とノーマライゼーション

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第11回インクルーシブ保育とノーマライゼーション

子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。子どもの「できない」ことに目を向けるのではなく、今「できている」ことに注目してみることが肝心です。
このシリーズでは、子育ての中で思わず「あるある!」と感じる、子どもたちのいろんな行動について、周りの大人はどのように寄り添えばいいのか、紹介していきます。気軽に読んでみてください。

 
前回、「気になる子ども」だけではなく、多様な子どもたちにはそれぞれ目の前の子どもたちに合わせた保育を行う「インクルーシブ保育」についてお話しました。
 
インクルーシブとは、「全てを受け入れる」すなわち、日常生活においてさまざまな困難さや弱さを感じている子どもに対して「全ての子どもを受け入れる保育」を行うということです。しかし、障がいのある子どもと障がいのない子どもをただ一緒に保育をしただけでは、インクルーシブ保育にはならないのです。どのような子どもにも合う保育、つまり、子ども一人ひとりに合わせたいろいろな保育ニーズに対応した、多様性のある保育を行うということです。しかし、インクルーシブ保育とは、決して「障がい児保育」の延長ではないのです。
 
障がいのある子どもを含めた万人のための学校を提唱した「サラマンカ宣言」や、国連の「障害者の権利に関する条約」など、障がいのある人々の権利擁護に関係する節目の動きには、障がいのある人も障がいのない人も同じように社会の一員として社会活動に参加し、自立して生活することのできる社会を目指すというノーマライゼーションの理念が存在します。ノーマライゼーションとは、障がいのある子どもや人々に対して、障がいのない子どもや人々と同等な機会の生活、社会的サービスを保障しようとする理念や運動をいいます。ノーマライゼーションが唱えられる前には、障がいのある人たちは社会から分離された居住施設で生活し、特別なケアを受けることが必要で最善であると考えられていました。しかし、一般社会の生活とは異なり、とても人間的とは言えない生活をしている実態がありました。
ノーマライゼーションの理念が目指す社会の具体的なあり方の1つが「インクルージョン」や「インクルーシブ」です。何人も排除しない社会の実現、つまり障がい、貧困、被差別、外国籍、被虐待等の境遇にあっても、だれもがよいかたちで社会参加できる社会の達成ということです。障がいのある人についても社会のなかで人としての尊厳と権利が尊重され、地域での多様なサポートを受けつつ、一般の人々と同等な生活を送るべきであることが強調されました。障がいがあることにより個別に支援が必要なニーズへの対応も行いつつ、どの子も排除しない教育や保育を実現することはノーマライゼーションがめざすあり方の一部です。障がいを理由に一般からかけ離れたような保育や教育をすることや、障がいを理由に活動や教材、子ども同士のかかわりも違ってよいということをノーマライゼーションでは認めません。一人ひとりの違いを理解し、認め、尊重し、一人ひとりが必要としている支援を重視しながら、どの子も活躍できる保育がインクルーシブ保育であり、一人ひとりを尊重し大切にするノーマライゼーションの実現といえるのです。

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横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。