トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第16回コミュニケーションが苦手なIくん

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第16回コミュニケーションが苦手なIくん

子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。子どもの「できない」ことに目を向けるのではなく、今「できている」ことに注目してみることが肝心です。
このシリーズでは、子育ての中で思わず「あるある!」と感じる、子どもたちのいろんな行動について、周りの大人はどのように寄り添えばいいのか、紹介していきます。気軽に読んでみてください。

 

年少から入園し、園生活2年目の年中のIくんがいました。クラスの活動がはじまっても落ち着くことができずに、集団での活動を無視して興味のあるところへ行ってみたり、1人で遊んでいたり、自由に歩きまわって過ごしています。「かして」「ちょうだい」などの簡単な言葉でのやりとりはできていますが、自分の気持ちをうまく伝えることが難しい様子です。人懐っこく、機嫌のよいときはニコニコしていて笑顔もかわいいIくんですが、自分の想い通りにならないと泣いて大騒ぎになり、気持ちを落ち着かせるのには時間がかかります。
文字や数字、記号にとても興味や関心があり、満足するまで紙に描き続けています。積み木遊びや歌をうたうこと、音楽も好きですが、ほとんど1人で遊んでいます。担任の先生はクラスの友だちとのかかわりをもってほしいと願っているのですが、なかなか糸口がみえてこないようです。
 
具体的な言葉がなくても、文字や数字、記号などに興味があるIくん。その興味のある文字や記号に注目し、その興味に寄り添ってともに楽しむこと。そして、Iくんが描いているそばで同じものをみること。Iくんが楽しいと感じていることに、同じ場で同じ時に保育者も共感することによってコミュニケーションがうまれ、同時に、Iくんの今までみえなかった一面も知ることができるでしょう。
保育所や幼稚園は集団で生活する場所であるから、友だちと遊んだり、みんなと一緒に過ごして子ども同士の関係が育たないかと考えるのも当然でしょう。しかし、無理に集団行動をさせようとするのではなく、ありのままのIくんを受け入れてくれる保育者、信頼できる保育者の存在もIくんにとって園の中の大切な居場所となるのです。
 
たとえ言葉は少なく、友だちに興味を示さない子どもでも、その子の今の様子をしっかりととらえ、手順を踏んでかかわることで、しだいに保育者とのコミュニケーションも増えてくるでしょう。まずは、保育者がその子の得意とする興味や遊びを知り、共有・共感すること。その得意とするものを中心に徐々にほかの子が加われるようになれば、1人遊びが多かったIくんにも、自然にクラスの友だちとのかかわりが増え、コミュニケーションや言葉の広がりもできて無理なくクラスの活動にも参加できるようになってくるでしょう。

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横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。