トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第43回はちゅウるい館に陽は暮れて

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第43回はちゅウるい館に陽は暮れて

こんにちは、ZOOたんこと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。
 
今回ご紹介する動物:ウミウ、クサガメ、インドシナウォータードラゴン、アルダブラゾウガメ、ビルマニシキヘビ、ヨウム、ミルクスネーク、エボシカメレオン、クチヒロカイマン、アオジタトカゲ、スッポンモドキ、エメラルドツリーボア、グリーンイグアナ、コモンマーモセット、アカアシガメ、シマヘビ、ニホンカナヘビ、ニホンスッポン、ニホンイシガメ、カメレオンモリドラゴン、マングローブオオトカゲ
 
訪ねた動物園:日立市かみね動物園
 

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日立市かみね動物園の「はちゅウるい館」は2018/11にオープンしました。親しみやすく仮名書きというのはよいとして、なぜ真ん中だけカタカナなのでしょうか。
 
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これがカタカナの「ウ」、ウミウです(2013/5/25撮影)。日立市には日本で唯一の鵜とり場「鵜の岬」があります。渡り鳥であるウミウはここで羽を休めるので、それらの中から全国の鵜飼いのための個体を捕獲しています。かみね動物園はそんな日立の伝統を背景に、日立市の鳥にも指定されているウミウの飼育を続けてきました。
 
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園内のチンパンジー展示場近くには、先日まで使われていたウミウの飼育展示ケージが残されています。クサガメは管理人というところでしょうか。
 
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一方、新しいウミウの住処がこちらです。まずは館に付設されるようにしてあるこの仕掛け。これこそがさきほど御紹介した鵜の岬にある鵜とりの小屋「鳥屋(とや)」です。岬の険しい崖の上にあるこの小屋でウミウを待ち伏せし、簾の隙間から見澄まして捕らえるのです。詳しい解説プレートもあるので、現場感覚を味わってみてください。
かみね動物園では、年二回、越冬のための南下と生息地への春の北上の際に行われる鵜捕りに合わせ、園の獣医師が捕獲されたウミウの健康診断や予防接種を行なって、全国に健康な鵜が送られるように協力しています。
 
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逆側に回れば、こんな様子(実際には一旦、入館して館内を抜けなければなりません)。引っ越しからもすっかり落ち着いて寛ぐ二羽のウミウです。
 
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またちょっと場を飛んでしまいますが、二階建ての館内の一階フロア。先ほどのウのケージはこのように下まで突き抜けています。いわば、崖の上から海面までを再現しているのです。
 
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午後には給餌解説も行われます。水中の魚を見事にキャッチするさまに、ウミウのハンターとしての進化、それに注目して鵜飼いの文化を創り出した人間の歴史を垣間見ることが出来るでしょう。
 
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あらためて順路通りに館内を巡ります。二階につながるエントランスを入れば、途端に気分は熱帯の樹冠。左奥に飼育スタッフが見えますね。何をしているのでしょうか?
 
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インドシナウォータードラゴンの給餌です。名前の通りに泳ぎも得意ですが、しばしばこうして樹上でも過ごします。お気に入りのコオロギをぱくり。
 
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一方で、世界で二番目に大きなリクガメであるアルダブラゾウガメは、もりもりと野菜を食べています。当館には総計五種のリクガメ類が飼育展示されています。
 
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こちらはビルマニシキヘビのアルビノ個体。
 
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当園では3個体のビルマニシキヘビを飼育しており、従来は霊長類の展示施設の一角でこれらの個体を交代で展示していました。そんな頃の一齣、時には芝生に出て日向ぼっこ(2012/6/10撮影)
はちゅウるい館の主旨のひとつは、このニシキヘビを含め、園が保有しながらもバックヤードの飼育にとどまっていた個体を来園者に公開し、あれこれ散発的なかたちで行われていたふれあい等の活動も一元化しようということです。それは動物たちに、より快適な生活の場を提供することを目指しており、そうやって生き生きとした動物たちの姿を総合的に提示することが、動物園から来園者へのメッセージともなるのです。
 
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再び、鳥です。このヨウムも、当館の開設まではチンパンジーの屋内観覧施設に間借りしていました。広々としたスペースの中に、好奇心が旺盛で知能が高いヨウムが退屈することなく健やかに暮らせるように、さまざまな設備を作り上げたのは、すべて当園のスタッフです。
ウミウといいヨウムといい、鳥が爬虫類の施設に組み込まれているのも、間借りの一種と感じるかもしれません。しかし、そうではないのです。
鳥はいわば最後の恐竜です。爬虫類という大きなまとまりの中から、ワニなどと共通の祖先を持ちつつ枝分かれしたのが恐竜の系統です。
わたしたち哺乳類も大グループとしての爬虫類から枝分かれしていますが、それは恐竜の出現のずっと以前です。つまり、わたしたちと恐竜に直接のつながりはありません。
けれども、鳥類は恐竜の系統から出現しました。しかも、化石に基づく研究の進展とともに、多くの恐竜に保温のための羽毛があったことがわかってきました。この羽毛をまとった小型の肉食恐竜が翼を進化させたのが鳥類です。小型羽毛恐竜と鳥類ははっきり、ここが境目と動物学的に区別できないので、鳥類は現代まで生き延びた恐竜ということになるわけです。
トカゲ・カメ・ヘビ・恐竜……、はちゅウるい館は爬虫類の進化の縮図です。
 
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こちらは中央アメリカ産のミルクスネーク。ネズミなどを狙って家畜舎にも忍び込みますが、その生態に牛の乳を飲みに来るというファンタジーが被せられました。目が白くなっていますね。ヘビ類はトカゲなどとは違って瞼がなく、代わりに透明なうろこが眼球を覆っていますが、このような白濁は脱皮が近いことを教えています(※1)。
 
※1.ヘビとトカゲのちがいについては、下掲リンクも御覧ください。
「ウミヘビ・カナヘビ・ヘビトカゲ」
 
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先ほどのミルクスネークの展示は屋外へのウィンドウがありましたね。外から見るとこんな様子です。これから暖かくなると、さらに屋内外の連続感が増すでしょう。こちらの池には、これも春を夢見ながらニホンイシガメが冬眠中。
 
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二階から一階へと向かう階段。途中にも何やら展示が設けられています。
 
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エボシカメレオン。かれらは五本の指が3:2で向き合い、わたしたち霊長類の手同様にものをしっかりとつかむことが出来ます。まったくちがう系統の動物同士が、樹上という環境の共通性から似たような体の仕組みを作り上げてきたのです。
 
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こちらはクチヒロカイマン。二階~一階の吹き抜けのポジションで展示されています。先ほども少し述べたように、ワニ類は現生の爬虫類の中では一番恐竜に近いグループとなります(トカゲ類はそれよりはだいぶ遠く、鳥類は恐竜そのものです)。
 
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鶏肉に食いつくカイマン。ワニは毎日定期的に食事をするといった動物ではありません。こんな場面に出会えたらラッキーと思いましょう。
このクチヒロカイマンは中南米に分布しますが、絶滅の危機にある18種のワニ類のひとつです(現生のワニ類は総計24種と考えられています)。日本では伊豆半島の熱川バナナ・ワニ園が生息域外での飼育繁殖に努めています。当館の開設にあたり、その中の1頭が寄贈されました。
陸と水双方を活用する半水生動物の姿がじっくりと観察できます。
 
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オープン・ラボです。動物園・水族館は必ずバックヤードを持ち、それを含めて、動物たちの健康な飼育と適切な展示を実現しています。また、貴重な研究調査などにもバックヤードの管理された環境条件が役立つことがあります。今回は特別な許可を得て裏からも撮らせていただきましたが、そんなわけでこれらは魔法の空間でもなければ手品の種明かしでもありません。むしろ、動物園・水族館がこのような科学的配慮の基盤を持つと来園者にも認識していただくことで、稀少な野生動物を飼育展示する場としての意義も評価支持されることになります。だから、ここに文字通りガラス張りのオープン・ラボがあるのです。
 
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こちらはオーストラリアやニューギニアに生息するアオジタトカゲ。その名の由来の青い舌が見えています。
 
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スッポンモドキの水槽を裏から覗き込んでみました。人馴れしている個体のせいか、こんなふうに寄ってきます。
 
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はちゅうるい館一階のフロアは、触ると温かくなっています。温水が流れて床暖房となっています。安全面・衛生面から写真は割愛しますが、それらのお湯も含め、動物のため・来園者のためのさまざまな調整装置がバックヤードで働き続けています。
 
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はちゅウるい館では、動物たちへの環境づくり、そして展示効果も兼ねて、昼過ぎにはミスト装置が稼働します。息づく植栽の緑、そして水面の波紋も楽しめます。ミスト放水は開園前の七時頃にも行われています。
 
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何やら嬉しそうに写真を撮る飼育スタッフ。エメラルドツリーボアがミストに濡れた木から水を飲んでいました。
 
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南アメリカの森に棲むかれらは、普段はこのようにぐるぐると丸まって過ごしており、先ほどのような姿はかなり珍しいものなのです。
なお、当館ではまったくちがう系統で東南アジアからオセアニアに分布するミドリニシキヘビも展示しています。かれらも同じように枝に巻きついて過ごします。しばしばいささか見つけにくいところにいますが、目を凝らして見つけ、エメラルドツリーボアと比べてみてください。
 
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そして、こちらは南アメリカ大陸をモチーフとした、少し風変わりな混合展示です。全部で三種類の動物がいるのですが、うまく見つけられるでしょうか。
まずは画面左の木の中にどっしりと構えるグリーンイグアナです。
 
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グリーンイグアナは地上・樹上を自由に動き回ります。すぐそばまでやってきてくれることもありますが、そんなとき、たとえば頭頂部にもうひとつ「目」があるのも観察できます(写真の赤い矢印)。この頭頂眼は爬虫類・両生類などでしばしば見られ、太陽の光の情報を脳に伝えて、方向の判断や体内時計の調整などに役立っていると考えられています。
 
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先ほどの写真、グリーンイグアナの右後方の樹上にいたのが、このコモンマーモセットです。小型ながらも独自の進化をした霊長類で、御覧のようにわたしたちと同じ、親指が他の四本の指と向かい合った手を持ちます。細い顎の切歯(前歯)を活かして木の幹に穴を開け、樹液をたべるほか、虫の類いも捕まえます。当園では植物食のグリーンイグアナとの食いわけを可能とするため、マーモセットにしかエサが取れないようにガードの格子をはめた給餌器を工夫しています。
 
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この展示スペースにもミストで放水が行われます。先ほどの写真でも左奥の地上にいたアカアシガメ、そしてグリーンイグアナは心地好さげに雨を浴びています。
 
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しかし、マーモセットたちは身を寄せ合って雨宿り。混合展示ならではの生き方の違いがよくわかります。
 
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はちゅウるい館の出口を目前に、最後のゾーンは日本産爬虫類を集めています。
一部ながら御紹介しましょう。
 
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「古事記」の八岐大蛇は赤酸漿(あかかがち)すなわち赤いホオズキのような目と記されていますが、シマヘビの赤い目も印象的です。
 
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シャープな体のつくりが魅力のニホンカナヘビです(ぷりっとしたヒガシニホントカゲも展示されているので比べてみてください)。
 
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こちらはニホンスッポン。本州・四国・九州に広く分布しますが、琉球列島にも移入して在来種を捕食したり、生息場所を争うなどの問題が起きています(国内外来種と称されます)。そんなかれらも爬虫類であるからには水から顔を突き出しての息継ぎ。
 
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近隣の水系の動物たちを集めた池には二ホンイシガメの姿も見られます。
 
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ふたりを夕闇が。カメレオンモリドラゴンのペアです(左の緑が濃い個体がメス※2)。
夕方になりました。屋内展示であるはちゅウるい館ですが、16時過ぎには照明を夕方風に変えます。ムードづくりをしているだけではありません。こうやって自然界に近い環境刺激を与えることで、より野生に近い生理や行動を誘導しているのです。
このペアは夕方になるとよくこのように寄り添います。照明が絞られた場所に一緒にいるという面もあるようですが、本種はまだ日本の動物園・水族館で公式の繁殖記録がないため、園としてはふたりの仲の進展を期待しています。
 
※2.カメレオンに似て体色を変える能力を持つため、こんな名で呼ばれますが、カメレオンとはまったく別系統で東南アジアに分布します。御覧のように体色の個体差も大きいのですが、それが性差を反映しているわけではありません。
 
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こちらはマングローブオオトカゲ。インドネシアやオーストラリアに分布します。この展示も前述のヨウム同様、当園のスタッフがなかみを組み上げています。
 
日立市かみね動物園のはちゅウるい館、そこは爬虫類や恐竜の末裔(鳥類)のヴァラエティ溢れる暮らしをコンパクトに収め、鵜とともに刻まれてきた地元の歴史の一齣を垣間見せてもくれます。わたしたちはこれらの展示を通して、動物たちの進化と適応、そして動物と人のつながりを生き生きと感じ取ることが出来るのです。
 
動物園に行きましょう。
 
参考資料
茨城県日立市市長公室広報戦略課(2019):ひたち 日立市報2/5,No.1645
 
日立市かみね動物園
 
写真提供:森由民

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日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。