トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第45回まきばと動物園

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第45回まきばと動物園

こんにちは、ZOOたんこと動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントを御提供できればと思います。
 
今回御紹介する動物:スコティッシュハイランドキャトル(ウシ)・ホワイトベルティッドギャラウェイ(ウシ)・ヒツジ・ストロングアイヘディングドッグ他の牧羊犬・アルパカ・ウマ・ブタ・ダチョウ・アヒル・ケヅメリクガメ・カピバラ・マーラ・ヤギ・カイウサギ(ヨーロッパアナウサギ)・モルモット・アフリカンピグミーマウス・モグラ(塚)
 
訪ねた動物園:マザー牧場
 

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マザー牧場は千葉県・鹿野山の緑豊かな地で「花と動物たちのエンターテイメントファーム」を目指している施設です。
 

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動物とのふれあいだけではなく、ソフトクリームといった牧場ならではのグルメもありました。
 
早速、この牧場で人気のアトラクション「マザーファームツアー」を体験してみました。
 
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場内から出発するメェメェバスに乗って、「マザーファームツアーエリア」へ向かいます。(※1)。
 
※1.各種体験のスケジュールや料金などは「マザー牧場」公式HPで御確認ください。
 

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バスの車内でもちょっとした学びの機会。
 

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動物たちが暮らすマザーファームツアーエリアに入っていくために、トラクタートレインに乗り換えます。牽引するトラクターはヨーロッパ製だそうです。
 

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エリア入り口の付近にも、トラクターが展示してありました。
 

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ではいよいよファームツアーの開始です。ところどころに敷設されたパイプはキャトルストップ。これはそれぞれの区画から動物たちが出てしまわないようにする仕掛けです。
 

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この日(2019/4/8)の午前中はあいにくの雨でしたが、天候不順ならではの眺めもあります。ぽこぽこと盛り上がるのはモグラ塚。地面が濡れると通気が悪くなるため、モグラは普段よりも多くの塚をつくって通気口とするのです。 

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全身の毛深さと大きな角が特徴的なこのウシはスコティッシュハイランドキャトル。
 

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ガイドスタッフが持つ餌に惹かれて寄ってきたのはホワイトベルティッドギャラウェイ。
これら二種はどちらも英国産の品種ですが、日本での飼育は少なく、マザー牧場を訪れた際には是非、かれらの印象的な姿を御覧ください。
 

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ヒツジたちが追いかけてきました。羊飼いもいますね。
 

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そして、牧羊犬。吠えるのではなく、羊飼いの指示を受け、距離を詰めたり離れたりしてヒツジたちに圧力をかけながら動かすタイプの牧羊犬で本場ニュージーランドではストロングアイヘディングドッグと呼ばれます。
 

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そんなさまざまな見聞を経て、大きな畜舎に辿り着きました。無心にミルクを飲むのは去年の暮れに生まれたロールです。子牛は半年ほどで離乳します。
 

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ここでは何種類かの動物に餌やり体験が出来ます。
 

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こちらはアルパカのオス・あさひ。昨年10月生まれですが、もうしっかりと餌を食べることが出来ます。
 

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先程、大活躍だった牧羊犬。メスのフィルです。
 

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盛りだくさんのマザーファームツアーから場内へ戻り、今度はこちらのアグロドームでショーを見学です。
 

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ドーム内に座る観客の前で幕が上がり、ガラス越しにショーを楽しむことができます。ここでも牧羊犬が活躍(※2)。
 
※2.ショーの名前は「牧羊犬とまきばの仲間たち」です。
 

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さらに続々と登場する動物たち。ブタは賢くて、イヌに覚えられるものなら大概は覚えられるということです。
 

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さらにはダチョウまで。
 

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ブレーメンの音楽隊どころかオーケストラが組めそうですね。
 

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同じくアグロドームにて。こちらは「シープショー」。世界各国から選ばれた19品種のヒツジが勢揃い。脂や暮らしの汚れで表面はくすんでいても、毛の内側は御覧の通りの美しさです。
 

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毛刈りの実演も行われます。品種改良の結果、家畜ヒツジは季節による毛変わりが起こりません。人間の手で刈ってやらなければならないのです。家畜は人が自分たちの生活に引き込んで定着させたもの。野生動物とは別の距離感で向かい合う必要があります。
 
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ショーは牧羊犬で締めくくり。意外とけろりとしているヒツジたちも印象的です。
 

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アグロドームを出て、裏側に回ってみると「アヒルの大行進」が行われています。こちらが避けなければ、足の上も平気で歩いていきます。
 

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アヒルたちの動きはすべてスタッフがコントロールしています。この鈴が要です。この音といくらかの報酬(餌など)を結びつけることで、鈴~定められた行動という流れがアヒルとスタッフの間に共有されます。(※3)。
 
※3.アヒルの鈴鳴らしは観客も数名に体験のチャンスがあります。
 

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アヒルの豆知識。メスは年を取るとくちばしの付け根が黒くなる傾向があります。一方、オスはお尻の羽がくるんと巻いているのが特徴です。恋の季節のオスだけの特徴です。
 

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動物が活躍するショーを堪能した後は、放し飼いの動物たちがマイペースに過ごす、ふれあい牧場へ。闊歩するケヅメリクガメ。
 

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なかなかのケツ圧ですね。
 

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カピバラもいます。
 

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偶然の出逢いと巧まざる行進。これはマーラです。カピバラと同じく南アメリカ大陸に棲む齧歯類(アルゼンチン固有種)ですが、草原や低木の生える土地に適応してウサギを思わせる姿で跳ねることが出来ます。半水生のカピバラの水かきのある足や水に浸かったままで周囲を見渡せる、一直線に並んだ目鼻耳と比べてみてください。
 

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再び、鈴の登場。
 

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こちらはゴールデンウィークに向けて準備中の「ヤギの⻘空さんぽ」です(※4)。原理はアヒルの大行進で御紹介したものとまったく同じでヤギたちは鈴の音に条件づけられて橋を渡ります。ヤギは元々、岩山などの荒れた急斜面でも自由に活動できるように進化しています(※5)。この散歩(橋渡り)はヤギの得意とする行動を引き出し、かれらの暮らしを活気づけながら展示効果を上げるものと言えるでしょう。
 
※4.現在の実施予定は以下の通りです。詳しくは「マザー牧場」公式HPで御確認ください。
 
・4/27〜30、5/1・5・6
14:00〜の1日1回(約10分間)
・5/2・3・4
10:00〜 ・14:00〜(共に約10分間)
・6/1〜30
14:00〜の1日1回(約10分間)
 
※5.ヤギの運動能力の卓抜さについては、下掲リンクの記事も御覧ください。
「あさひやま行動展示見学記」
 

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ゴールイン。
 

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隣は何をするひとぞ。ヤギは自立心が強い面と好奇心が強く仲間に注意を向ける面が共に備わっています。
 

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自主練あるいは文字通りのお散歩中。こういうこともあるので「頭上注意」は欠かさずに。
 

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これは、ふれあい牧場の一角にあるウサギの展示スペースです。野生のヨーロッパアナウサギを家畜化したカイウサギの中にも本来の習性が眠っています。そういうウサギらしさの展示がこれです(※6)。群れたり離れたり、そしてもちろん穴を掘ったり。スタッフはウサギたちの収容後に日々、穴の埋め戻しに追われるのですが。
 
※6.ウサギ自身のありように配慮しながらの飼育展示については、以下を御覧ください。
「ウサギらしさはどこにある?」
「ウサギ喜び庭で穴掘り、イヌはこたつで丸くなり、ネコは……?」
 

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時にはつまみ食いも。
 

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ふれあい牧場から移動し、時間を決めてウサギやモルモットとふれあいが出来る「うさモルハウス」へ。ここでも約束があります。
 

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抱っこは御遠慮いただいています。以前は手袋をして膝の上に乗せるというかたちをとっていましたが、たくさんのお客様が訪れる中、動物や人の安全面、そしてストレスを含む動物たちの福祉面への配慮から抱っこなしでそっと撫でるかたちにシフトしたのです(※7)。
 
※7.動物福祉との関わりでの抱っこの廃止については、下掲リンクの事例も御覧ください。
「モルモットにはモルモットの都合がある」
 

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ふれあい時間もモルモットはこの台の上でマイペースに過ごしています。ちょっとした休憩所も設けられています。わたしたちはモルモットたちの様子を見ながら手を差し伸べることで、お互いに穏やかな交わりが得られることになります。足の指の数などの特徴・個体ごとの姿のちがいといったところを観察したりもしながら、かれらとのひとときをお過ごしください(個体の写真と名を示した一覧も掲示されています)。
 

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個体の相性などからウサギとモルモットの取り合わせで展示されているものもいます。時には異文化交流(?)のグルーミング。
 

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世界最小の齧歯類・アフリカンピグミーマウスもいます。おとぎの国仕様ながらこれも動物たちの都合を配慮したつくりです。上ったり下りたり。
 

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そして何よりみんなでぎゅっと固まるのが大好きなのです。
 

人が飼い馴らし、生活をともにする家畜(domesticated animal)たちに出会えるマザー牧場。わたしたちはそこでこそ、動物たちが人とどんな関係を結んでいるのか、かれらとどのように交わり、何を配慮することで互いに心地よいありようを目指せるのか、を楽しみながら考え、気づいていくことが出来るのです。
 
動物園に行きましょう(※8)。
 
※8.動物園を、生きた野生動物を飼育展示する場であるとするならマザー牧場は動物園からはズレますが、そこでの体験を一般の動物園や野生のありさまと照らし合わせるなら、動物と人の関係について考えを深めることも出来るでしょう。そのような出逢いと気づきの入り口になる場こそが、より広く根本的な意味での動物園なのです。
 
マザー牧場
 
写真提供:森由民

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