日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
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- 第79回動物たちのつかみどころ
- 第78回動物園がつなぐもの
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- 第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に
- 第75回ZOOMOの動物のことならおもしろい
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- 第73回京都市動物園はじめて物語
- 第72回ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの名にあらず
- 第71回尾張の博物学 伊藤圭介を知っていますか
第12回 泳ぐ動物の「前輪駆動」・「後輪駆動」
こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
・今回ご紹介する動物:カリフォルニアアシカ・ゴマフアザラシ・
フンボルトペンギン・エトピリカ・カイツブリ・アメリカビーバー
・訪ねた動物園:おびひろ動物園・アクアワールド茨城県大洗水族館・
井の頭自然文化園
※水族館も広くは「動物園」の一種と捉えています。
ここは北海道、おびひろ動物園。プールのなかではまさに我がもの顔でカリフォルニアアシカが泳いでいます。かれらは頑丈な前肢を使って泳ぎます。いわば「前輪駆動」です。
しかし、御覧の通り、かれらの体型はアシカとはまったくちがいます。前後とも肢は小さく、地上では這うように移動します。泳ぐときも身をくねらせ、後肢を左右に振る「後輪駆動」です。
もう一度、アシカの姿を見てみましょう(アクアワールド茨城県大洗水族館)。かれらの肢は地上でも体を支えて立つことができ、前肢の力はこんな姿勢も可能です。
同じく、大洗水族館。フンボルトペンギンも「前輪駆動」です。この個体はまだ幼いので、からだの模様が出来上がっていません(※)。
※フンボルトペンギンと近縁の仲間については、こちらを御覧ください。
アイヌ語で「くちばしが美しい」という意味の名を持つエトピリカです。エトピリカは北海道を含む北太平洋沿岸部に分布し、甲殻類や魚を食べています。かれらの姿と比べると、あらためてペンギンもまた「翼の力で水中を飛ぶ鳥」なのだとわかります。
一方、こちらはカイツブリ(井の頭自然文化園)。随分と後ろの方に肢がついているな、と思いませんか。カイツブリも潜水の名人です。こうやって小魚などを捕らえます(※)。かれらのプロポーションが理に適っていることがわかりますね。「後輪駆動」のハンティング・スタイルです。
※井の頭自然文化園(水生物館)では、水槽の中でモツゴを捕る姿が観察できます。
最後にもう一度、おびひろ動物園です。ダムづくりで有名なアメリカビーバーはどうやって泳いでいるのでしょうか。あの平たい尾がオールの役割……?実はビーバーの推進力は水かきのついた大きな後肢で生み出されています。尾は方向をコントロールするので、オールというよりは舵なのです。
哺乳類・鳥類といった大きなくくりでは、体の基本構造はまったく同じです。しかし、それぞれの種はその基本構造を巧みにアレンジして、独特のシステムをつくりあげています。それらを比較することで、わたしたちはかれらが、ひいてはわたしたちがどのように進化してきたかを知ることができます。今回御紹介した「泳ぐ動物たち」は、そんな比較の試みのひとつでした。
動物園に行きましょう。
☆今回取材した園
◎「カリフォルニアアシカ」「ゴマフアザラシ」「アメリカビーバー」に会える動物園
おびひろ動物園
公式サイト http://www.city.obihiro.hokkaido.jp/zoo/
※閉園期間があるので、ご注意ください。
2016年の夏期開演期間4月29日(金)〜 9月30日(金)
◎「カリフォルニアアシカ」「フンボルトペンギン」「エトピリカ」に会える動物園
アクアワールド茨城県大洗水族館
公式サイト http://www.aquaworld-oarai.com/
◎「カイツブリ」に会える動物園
井の頭自然文化園
公式サイト http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ino/
写真提供:森由民
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