トップZOOたん~全国の動物園・水族館紹介~第31回ウサギ喜び庭で穴掘り、イヌはこたつで丸くなり、ネコは……?

日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

第31回ウサギ喜び庭で穴掘り、イヌはこたつで丸くなり、ネコは……?

こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園や水族館。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。

 

今回ご紹介する動物:イエウサギ(アナウサギ)・ヤブイヌ・マヌルネコ

 

訪ねた水族館:埼玉県こども動物自然公園

 

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scz_171206 687抜けるような青空。寒いとはいえ、凛とした想いも湧いてきます(2017/12/6撮影)。埼玉県こども動物自然公園は県中部・東松山市郊外の丘陵という立地を活かし、森の中の広々としてのどかな動物園という風情を持っています。

 

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そんな環境の中、動物たちにもマイペースな暮らしが提供されています。こちらは2017/11に開設したばかりの「ぴょんぴょん村」。

 

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scz_171206 529ここではイエウサギたちが草を食み穴を掘りという原種である野生のアナウサギを彷彿とさせる姿を見せてくれます。

 

scz_171206 692時には立ち上がって、辺りの様子を確認です。

 

scz_170926 599現在の「ぴょんぴょん村」以前にも「ウサギひろば」では土の運動場での暮らしが行われていました(2017/9/26撮影)。

 

scz_170926 597それらの実績・実践を基にしながら、新たな施設が組み上げられていったのです。工事では、可能な限り動物園スタッフたちが自ら作業に臨みました。立地プラス日々の飼育の知見を含めてのスタッフの知恵や力の投入、それが当園を創り出し、日々の営みを進めています。

 

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ウサギたちのすぐそばまで近寄れる施設であるということは、わたしたち来園者がかれらに配慮して振る舞うことが望まれます。ここでのウサギたちは気ままな抱っこや餌やりの対象ではなく、かれら本来の生活を観察させてくれる存在です(※)。

 

※動物園でのウサギらしさを意識した飼育・展示の試みについては、以下の記事も御覧ください。
「ウサギらしさはどこにある?」

 

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そんなあれこれを踏まえつつ、人も人なりに寛ぎながらウサギたちを観察できる施設となっています。

 

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さて、こちらもそんな手づくり展示のひとつです。どんな動物のための場所なのでしょうか。

 

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よくよく見れば、寒さに凍てつく池をよそに陽だまりの中に動物の姿。

 

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南アメリカ大陸に生息するヤブイヌです。当園ではオスのユウタ(12歳)とメスのアズキ(10歳)のペアが飼育されています(年齢は取材時の2017/12/6現在)。こちらの施設は大きめの水場をつくり草を植えるといったことを中心として制作され、2015年から展示が始まりました。

 

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ヤブイヌたちはおよそ14万年前からほとんど姿を変えていないと考えられ、いくつものユニークな特質を持っています。展示施設のそばにつくられた解説パネルを開けば、そんな秘密のいくつかを垣間見ることが出来ます。

 

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2018年の干支はほかならぬ戌(いぬ)。年賀状用の撮影スポットも設けられていました(2017/12/6撮影)。そして、ここに描かれた姿もヤブイヌのユニークさの一端です。オオカミを原種とするイヌはオスが片足を上げて臭い付けの尿をしますね。これはヤブイヌのオスにも見られる行動ですが、このイラストはメスを描いたものです。ヤブイヌのメスは逆立ちでマーキングをするのです。当園のペアはともに10歳を過ぎており、ヤブイヌとしては高齢と考えられます。それでもメスのアズキは時折、逆立ちスタイルのマーキングを見せてくれます。

 

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ヤブイヌは一見して分かるようにイヌよりも胴長短足です。この体形は「藪犬」という命名通り、中南米の森の茂みを掻い潜って活動する暮らしに適応しています(英語でも”bush dog”と呼ばれています)。かれらはイヌ同様にペアとその子どもたちを基本とする群れをつくりますが、よくみんなで列をつくって藪の中を走り回ります。写真のアズキとユウタの姿も、そんな習性のミニマムな現われと言えるでしょう。

 

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ヤブイヌのもうひとつの顕著な行動は泳ぎです。かれらの足には水かきがついています。当園のヤブイヌたちも夏場などは、ふとした折にじゃぶじゃぶと池を渡ってみせてくれたりします。時には放り入れられた牛の大腿骨などをそのままそこで賞味することもあるそうです。
設けられた水場や茂み、それらがヤブイヌたちの本来的な必要に応えようとしているものなのがお分かりいただけたかと思います。
個体の問題としては、たとえばユウタは白内障が進みつつあり、症状に応じて薬を経口投与しています。現在、当園では年齢を重ねていく個体としてのかれらにふさわしい対応を最優先し、無理なく仲良く暮らしている姿を展示していきたいと考えているとのことです。

 

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前出の陽だまりの写真は開園間もない午前中でしたが、昼頃にはまた別の場所でツーショット。移ろう陽を追いかけているのでしょう。

 

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しかし、陽だまりに恵まれない日もあります(2016/12/27撮影)。そんな時のアズキとユウタの居場所、それは運動場に組み上げられた洞の中です。ここは温熱灯が仕込まれたホットスポットです。日本の犬には雪の中をはしゃぎ回るといったイメージがありますが、それはオオカミの血を引くからこそでしょう。ヤブイヌたちにしてみれば、冬の悪天候にはコタツで丸くなりたいところなのです。

 

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一方でむしろ暑さが苦手で冷涼な気候を好むネコもいます。中央アジアに広く分布するマヌルネコは砂漠や草原、岩山などに棲み、中には3000メートルに及ぶ高地に暮らすものもいます。

 

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2017/4/20生まれの子どもたち。オス3・メス2です。母親のシャルは残念ながら7/9に亡くなりましたが、子どもたちはすくすくと成長し、そろそろオスメスを分ける時期になろうとしています。人工物を組み合わせた室内ですが、そこには険しい岩山でも活発に動くことが出来るマヌルネコの身体能力が活かせる構造が組み上げられています。このような飼育的配慮の下で子どもたちは自分の種にふさわしい体をつくりあげていくのです(※)。

※当園では、飼育下のマヌルネコの生活をより充実させるために段ボールの遊具なども活用されています。下記リンクを御覧ください。
「ペットにできないネコ」藤嶋飼育係(♂)2017.3.24

 

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見た目にはイエネコと大差ないようにも映るマヌルネコですが、体形など、いろいろなちがいを見ていくとまったくの別種なのが分かります。瞳のかたちもそんなちがいのひとつです。マヌルネコの瞳はスリット状ではなく、丸く絞り込まれるように縮むのです。

 

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こちらの部屋は空っぽ?

 

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この部屋の住み手、オスのレフです。子どもたちの父親に当たりますが、単独生活者のマヌルネコには社会的な意味での父親はおらず、かれはかれの独りの日々を営んでいます。この日は日中のほとんどをこのトンネルで過ごしていたので居心地がよいのだろうと思われますが、既に述べたように寒冷地に適応して進化してきたのがマヌルネコです。気温が25度を目安に、飼育員の判断でトンネルに出すのを控えたりもするとのことです。

 

scz_171206 145レフの足の裏。レッサーパンダなどもそうですが、一面に毛が生えているのは雪の上なども滑らず凍えず歩ける適応と考えられます。トンネル展示はマヌルネコの快適さとともに、かれらがどんな動物なのか、本来の生息環境はどのようなものであるのか、そんなことをわたしたちに考えさせるヒントも示しているのです。

 

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今回の取材では出逢うことが出来ませんでしたが、当園ではあと一個体、9歳のメスのタビーも飼育しています。動物が自分で裏との出入りを選べるこちらの部屋などを使っているので、訪れた際にはしばらく足を止めてみてください。

 

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最後にマヌルネコ舎の片隅に掲げられたメッセージです。動物を見て、可愛い・飼いたいと思ってしまうとしても、その気持ち自体を否定する必要はないし、否定したらなくなるというものでもないでしょう。
しかし、野生のマヌルネコは現存15000頭ほどと推定されています。遺伝的な多様性などを考えれば、決して安泰な動物種とは言えないでしょう。マヌルネコの個体数が減り生存が脅かされる大きな要因としては、開発などによる生息環境の破壊・生息域の分断が指摘されています。それは、既に述べたように個々に単独生活を送る動物としてのかれらにとっては日々を暮らし、繁殖のために出逢いの機会を持つための大きな困難を意味します。
詳しくは実際の解説板を御覧いただきたいのですが、ひとくさりだけ引用させていただきます。
「飼いたいほど大好きなマヌルネコが地球からいなくなってしまわないように、本物ではなく、写真や動画、記憶で皆さんのうちまで連れて帰ってあげてください。そして彼らを守るために何をしたらいいか、一緒に考えていきましょう。」
ペットにするのではなく、動物園で出逢うべき動物がいる。そうであるなら動物園は、その特権にふさわしい飼育展示の場でなければなりません。埼玉県こども動物自然公園はさまざまな展示やメッセージを通して、自らにそのような使命を課しているのでしょう。それを受け止め、共に発展させるのは来園者であるわたしたちです。

 

動物園に行きましょう。

 

☆今回取材した館

 

◎埼玉県こども動物自然公園 公式サイト

 
写真提供:森由民

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