トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第2回 歩き回る博士タイプの男の子Bくんのケース

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第2回 歩き回る博士タイプの男の子Bくんのケース

子どもはいろいろ、文字通り十人十色。
成長や発達にもそれぞれ凸凹があり、周囲がどう対応すればよいか困ることも。だからといって、子どもの「できない」ことばかりに目を向けるのではなく、
今「できている」ことに注目し、ありのままの子どもを受け止め、理解する。そんな、どの子にもうれしい子育てや保育の姿をお伝えします。

今回のテーマ「歩き回る博士タイプの男の子Bくん」についてお話ししましょう。Bくんは、幼稚園に通う年長の男の子です。

担任の先生によると、落ち着きがなく、クラスの中をウロウロしているBくん。興味のある話題や好きなことについては、場面や状況を考えずに一方的に話をし続けてしまうことがあるようです。さらに保育中には、次のような姿が見られるようです。

①自分の好きなこと、興味のあることだけをしたがる。

②嫌なことがあると激しく泣く。

③「いやだ」「バカ」など汚い言葉を使う。

④年長になり、クラス替えに伴う戸惑いはほとんどなかったが、新しい担任との関係がうまく築けない。

⑤保育中にクラスを出て行ってしまい、元担任の声かけでクラスに戻る。

⑥集団で過ごすこともあるが、保育活動に意識を向け続けることが難しく、別のことを始めたり寝転がったりするため、ほぼ1対1での対応が必要になる。

⑦特定の人物としかコミュニケーションをとらない。
担任の先生からの願いは、周りを見て行動する力を身につけ、穏やかに安心して過ごしてほしいということでした。私からお伝えしたことは、①〜⑦にあるようなBくんの目立つ部分を、よい点として捉えようという考え方です。まずは、Bくんが好きなこと(図鑑を見るなど)をする時間をグンと増やし、そのときに新しい担任も一緒にじっくりと関わります。そうすることでBくんが徐々に心をひらき、新しい担任との信頼関係がうまれていきます。
また、クラスの子どもたちの前でBくんのできることをほめると、周りの子どももBくんのことを認めはじめ、理解をしながら関わる姿が見られるでしょう。これは何も難しいことではありません。
Bくんの得意とする強みを活かすのです。その後、Bくんの変化について尋ねると、新しい担任への愛着や信頼感が築かれてきたこと、クラスのほかの子どもたちが落ち着いてくることで、Bくんも安心感を得て落ち着いてきたという話を聞くことができました。フォローしてくれる友だちの存在と、それを素直に受け入れるBくんの様子からは、クラスへの所属意識が高まってきている
ことがうかがえます。


先生より

子どもの「強み」を活かせると関係も深まります

子どもたちが新しい場所に慣れてきて周りが落ち着いていく中、園生活でなんとなく気になる子がいるかもしれませんね。そんなときは、その子を知るチャンスだと思ってください。気になる部分をあえて知ろうとすることが、その子との関わりをぐっと深めます。今回のケースは好きなこと、得意なことを通して、大人にとっても子どもにとっても無理のない関係が増えました。つい大人の都合を優先しがちですが、子どもに寄り添う気持ちが大切です。お子さまとの関わりでもチャレンジしてみてください。

Letsmazekoze
me[ミー]夏号 2016 Summer Vol.31より転載

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横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。