日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。
- 第80回ぼぉとする動物園
- 第79回動物たちのつかみどころ
- 第78回動物園がつなぐもの
- 第77回サメのしぐさを熱く観ろ
- 第76回泳ぐものとたたずむもの、その水辺に
- 第75回ZOOMOの動物のことならおもしろい
- 第74回それぞれの暮らし、ひとつの世界
- 第73回京都市動物園はじめて物語
- 第72回ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの名にあらず
- 第71回尾張の博物学 伊藤圭介を知っていますか
第15回 コビトカバはなぜかわいい?
こんにちは、動物園ライターの森由民です。ただ歩くだけでも楽しい動物園。しかし、 動物のこと・展示や飼育の方法など、少し知識を持つだけで、さらに豊かな世界が広がります。そんな体験に向けて、ささやかなヒントをご提供できればと思います。
・今回ご紹介する動物:カバ・コビトカバ・カピバラ・コツメカワウソ・オグロプレーリードッグ・ミーアキャット
・訪ねた動物園:日立市かみね動物園・いしかわ動物園
日立市かみね動物園では、カバの母子・チャポン(手前)とバシャンが暮らしています。1963/3/12生まれのバシャンは国内最高齢の個体です(※)。
ダイナミックさとユーモラスさを兼ね備えたカバの姿は、動物園の人気者にふさわしいと言えるでしょう。
※バシャンは体調により展示時間等を調整しています。
いしかわ動物園のオスのコビトカバ・ヒカル。屋外展示ではすぐ目の前までやってくることもあります。
こちらは屋内展示。手前で食事をしている個体(首がピンク色)がヒカルです。隣にいるのはメスのノゾミです(ずっと撮影していたので少し意識されてしまったかもしれません)。ノゾミとヒカルは将来を期待されるペアで、同園では二頭の様子を観察しながら繁殖の機会を考えています(※)。
※野生のコビトカバは森で暮らし、しばしば単独生活者です。
さて、カバと比べるとコビトカバは、多くの人に「こどもっぽくてかわいい」という印象を与えるかと思います。それは体のサイズのせいだけではないでしょう(※)。
カバとコビトカバの顔をよく見比べてみてください。コビトカバの方が人間の子どもに似た目鼻立ちだと感じませんか。
※コビトカバはおとなになってもカバの子どもくらいの大きさ(親の半分ほどの体長)しかありません。
こちらは水に入っていく途中のチャポンです。御覧のようにカバは鼻・目・耳が水平に並んでおり、水に浸かったままでも辺りの様子をうかがえるようになっています。
カバとコビトカバの共通祖先は現在のコビトカバと似た姿と暮らし(森での単独生活)をしていたと考えられています。カバはそこから枝分かれし、大型化するとともにサバンナに進出しました。昼間はほとんど水中で過ごすので、いま見るような目鼻立ちに進化したと考えられています。
鼻・目・耳が水平に並んだ目鼻立ちと言えばカピバラもそうです。かれらも中南米の水辺に住み、しばしば水に浸かって過ごします。地域や種はちがっても、カバと同様の環境への適応が見られるのです。
動物たちの目鼻立ちと暮らしの関係について、もう少しだけ見てみましょう。かみね動物園には、ジュンとナツコのペアのコツメカワウソがいます。
カワウソもまた、なにやら人間の赤ちゃんにも似たかわいらしい顔をしていますが、口からは鋭い歯がのぞきます。
カワウソはイタチのなかまで、水中を泳ぎながら魚を捕らえて食べています。かれらの二つの目が顔の前面に集まっているのは、立体的な視野で獲物との距離を精確に計るためと考えられます。わたしたちは霊長類ですから、わたしたちの立体視は枝から枝へと樹上で暮らしていた祖先から受け継いだものでしょう。カワウソとヒトの目鼻立ちは、いわば「他人の空似」なのです。
かみね動物園では竹竿の先に魚を着けて与えるなど、カワウソたちの能力を引き出し、かれらの生活に刺激やリズムを与えるさまざまな試みを行なっています(2015/3/28撮影※)。
※詳しくはこちらを御覧ください。
http://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/nakamoto/p050622.html
カワウソたちの姿から学んだことは、他の動物たちの観察にも役立ちます。どちらも後ろ足で立ち上がる姿が注目されるミーアキャット(いしかわ動物園)とオグロプレーリードッグ(かみね動物園)ですが、見比べると目鼻立ちはまったく異なります。
ミーアキャットはアフリカ南部の乾いた土地に住むマングースのなかまで、サソリなども含む小動物を食べます。かれらはカワウソ同様に肉食動物の顔を持ちます。
北アメリカの草原に住むプレーリードッグは複雑な巣穴を掘りますが、イネ科の草を主食とするリスのなかまです。かれらの目は左右に飛び離れていますが、これは草食動物によく見られるもので、背後まで広い視野を持つことで、肉食動物に対する警戒の役に立っていると考えられます。
いしかわ動物園にもオグロプレーリードッグがいますので、隣り合わせの展示のミーアキャットと実際に比べてみてください。
動物たちの顔にもかれらそれぞれの生き方が現れています。たとえば「かわいい」という気持ちをきっかけにして、さらにその先まで知っていけば、動物たちにもっと深い親しみを持てるでしょう。
動物園に行きましょう。
☆今回取材した園
◎カバ・カピバラ・コツメカワウソ・プレーリードッグに会える動物園
日立市かみね動物園
公式サイト http://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/
◎コビトカバ・カピバラ・プレーリードッグ・ミーアキャットに会える動物園
いしかわ動物園
公式サイト http://www.ishikawazoo.jp/index.html
写真提供:森由民
前の記事:第14回 ポップコーンのにおいのする熊狸
次の記事:第16回 きになる動物たち