トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第19回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(中編)

大学教員。横浜国立大学大学院教育学研究科修了 修士(教育学)博士(社会福祉学)。特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。東京都オリンピック・パラリンピック競技大会ONE -Our New Episode-東京2020 NIPPONフェスティバルMAZEKOZEアイランドツアー プロダクションマネージャー。世田谷区オフィシャルチャンネル 発達障害理解のための啓発動画「ハッタツ凸凹あるある」 監修。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学・日本体育大学非常勤講師。俳優東ちづるが理事長を務める一般社団法人Get in touchのプロボノとして活動。障害のあるなしにかかわらない保育・教育について実証研究を行い、さらに被災地での子ども支援、被災地保育・教育として現地へ出向き奮闘中。

第19回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(中編)

前回はノーマライゼーションや特別支援教育についてお話ししましたが、皆さんにもっと深く知っていただくため、今回はインクルーシブ教育に焦点を当ててお話しし ます。インクルーシブ教育は、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが共に学び、成長できる環境を目指すものです。どのようにしてこの理念が実際の教育現場で生かされているかを詳しく見ていきましょう。
 
第18回(前編)
 
 
インクルーシブ教育(包括教育)とは 、『多様な教育的ニーズを持った子どもたちを分け隔てなく包摂することによって,一人ひとりの教育的ニーズを満たすことを目指す教育をインクルーシブ教育という.この理念を実現するには,同じ場で共に学ぶことを追求するとともに,一人ひとりの子どもの自立と社会参加を促すための課題を見据えて,その時点での教育的ニーズに最も的確に応えうる指導を提供できるように,多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である』(文部科学省 2012)とされています。
 
インクルーシブ教育(包括教育)は、すべての子どもが多様な学習環境で快適に学べるようにする教育の形です。この教育では、すべての子どもが教育を受ける権利を持っていると考えます。1948年の世界人権宣言や1966年の国際人権規約A規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する規約)では、全ての子どもに教育を受ける平等な権利が保証されています。また、1989年の国連子どもの権利条約では、障害児が適切なケアと教育を受ける権利が強調されています。
この条約は、障害や民族、宗教、言語、ジェンダー、能力に関わらず、すべての子どもが差別されずに発達する機会を保証されるべきだと述べています。しかし、現実には、学校や保育園での具体的な実践への知識がまだ十分ではありません。今後、誰もが使える教育や保育のプログラムを開発することが、この教育の推進に大きな助けとなるでしょう。
 
インクルーシブ教育とは、障害のある子どももない子どもも一緒に学び、共に成長する教育です。これまで日本では、障害のある子どもは特別な学びの場で教育を受けていましたが、インクルーシブ教育では、可能な限りすべての子どもが一緒に学ぶことを目指しています。「インクルーシブ」とは「すべてを受け入れる」という意味で、日常生活でさまざまな困難を抱える子どもたちを含め、すべての子どもを受け入れる教育を行うということです。インクルーシブ教育・保育を構成する基本概念は①ユニバーサルデザイン、②合理的配慮、③特別な場の3つで す(本田2022)。この ユニバーサルデザインをすべての教室で整理することが大切だと考えています。さらに個々の合理的配慮を考え、特別な場も必要なのだと柔軟に考えていきたいです。
障害のある子どもとない子どもをただ一緒に教育するだけでは、インクルーシブ教育とは言えません。大切なのは、一人ひとりの子どもに合わせた教育を行うことです。つまり、子どもたちの多様な教育ニーズに応じた、多様性を重視した教育を実施することが求められます。インクルーシブ教育は、障害児教育の単なる延長線上にあるものではなく、すべての子どもが自分の能力を最大限に発揮できるような環境を提供することを目指しています。
 
 
「サラマンカ宣言」(1994年)や「障害者の権利に関する条約」(2007年)など、障害のある人々の権利を守るための国際的な動きには、ノーマライゼーションの理念が根底にあります。ノーマライゼーションとは、障害の有無に関わらず、すべての人が普通に生活できる社会を目指す考え方です。この理念が具体化したものが、「インクルージョン(包括)」や「インクルーシブ(包括的な)」という形です。
また「万人のための教育(Education for All: EFA)」という考えのもと、社会的インクルージョンやインクルーシブは、誰一人排除されることなく、障害、貧困、被差別、外国籍、高齢、被虐待などの状況にあっても、すべての人が教育に参加できる状態を目指します。
またインクルーシブ保育・教育は、障害や病気のあるなし、国籍や宗教の違いにかかわらず共に育ち、学ぶことを追求することです。震災被害がある日本においては「遊ぶ機会が以前より制限されている被災地の子どもも同様」被災地の子どものたちの教育・保育もインクルーシブ教育の対象と考えます(河合2024)。
 
2006年に国連総会で採択され、2014年に日本も批准した「障害者の権利に関する条約」では、障害のある人々へ向けての様々な取り組みが求められています。この条約の第24条では教育についても言及されており、States Parties shall ensure an inclusive education system at all levels and lifelong learning と規定しています。日本政府の訳では「障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」と表されており、文部科学省も特別支援教育に関する報告書では「インクルーシブ教育」という表現を使っています。
 
また、2016年4月1日には障害者差別解消法が施行され、障害のある人もない人も共に生きる社会を目指すことがうたわれています。この法律は、障害の有無にかかわらず全ての人が互いに人格と個性を尊重し合い、共生する社会を実現するための基本方針や、国や地方レベルの行政機関、民間事業者に対する具体的な措置を定めており、インクルーシブ教育の推進にも重要な役割を担っています。
 
 
こちらもご覧ください
第9回 インクルーシブ保育「気になる子ども」
第10回 インクルーシブ保育ってなに?
第11回 インクルーシブ保育とノーマライゼーション
第12回 ノーマライゼーションのひろがり

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横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。