トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第18回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(前編)

大学教員。横浜国立大学大学院教育学研究科修了 修士(教育学)博士(社会福祉学)。特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。東京都オリンピック・パラリンピック競技大会ONE -Our New Episode-東京2020 NIPPONフェスティバルMAZEKOZEアイランドツアー プロダクションマネージャー。世田谷区オフィシャルチャンネル 発達障害理解のための啓発動画「ハッタツ凸凹あるある」 監修。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学・日本体育大学非常勤講師。俳優東ちづるが理事長を務める一般社団法人Get in touchのプロボノとして活動。障害のあるなしにかかわらない保育・教育について実証研究を行い、さらに被災地での子ども支援、被災地保育・教育として現地へ出向き奮闘中。

第18回「すべての子どもへの教育 インクルーシブ教育と知的障害(知的発達症)へのアプローチ 」(前編)

お久しぶりです。子どもはいろいろ、文字通り「十人十色」。以前お伝えした 「インクルーシブ教育」の“いま”について、全3回にわたりお話 しします。初回は、インクルーシブとかかわり深いキーワードをひも解いていきましょう。
 
 
こちらもご覧ください
第9回 インクルーシブ保育「気になる子ども」
第10回 インクルーシブ保育ってなに?
第11回 インクルーシブ保育とノーマライゼーション
第12回 ノーマライゼーションのひろがり
 
 
ノーマライゼーションとは
ノーマライゼーションとは、「障害のあるなしにかかわらず,すべての人が地域においてごく普通の生活をしていけるような社会を実現すること(厚生労働省 1996)」と定義されています。この理念は、障害のある人もない人も地域で共に生活している状態こそ自然であるという考えに基づいています。つまり、障害がある方も地域社会で普通に生活できるよう、家庭や地域で支援を行うことがとても重要です。
また、ノーマライゼーションの考え方は、障害のある人だけでなく、 高齢者など社会的にサポートが必要なすべての人々を含め 、共に生きる社会を目指す方向へと広がっています。このようにすべての人が共生する社会を実現することが、現在の重要な政策課題とされています。
 
特別支援教育とは
1990年代から2000年にかけて、障害児教育の分野で大きな変化が求められるようになりました。これまでの「特殊教育」 は、盲学校や聾学校、養護学校や特別な学級など、特定の場所で障害の種類に応じた教育が行われていましたが、2001年から文部科学省は、このような教育体制を見直し、2007年に は 「特別支援教育」という新しい形を導入しました。
特別支援教育とは、障害のある幼児、児童、生徒の個々の教育的ニーズを理解し、それに応じた適切な支援を行う教育のことを指します。「教育的ニーズ」とは、その子どもが健全に成長し、将来的に社会生活を送るために必要な教育を意味しています。つまり、どの子どもにも固有のニーズがあり、それを正確に捉え、適切な教育を施すことが、子どもたちの発達を最大限に引き出す鍵となります。
この変化により、障害のあるなしにかかわらず 一緒に学ぶ統合教育が進められ、現在ではすべての子どもがより平等に教育を受ける機会を持つことを目指しているのです 。
 
知的障害(知的発達症)とは
知的障害は、知能指数(IQ)が70以下とされることが一般的で、知能の発達が遅れている状態を指します。学習、適応行動、日常や社会生活での適応能力も限られていますが、個々に合った適切な支援を受けることで、十分な能力を発揮することが可能です。
支援として特別支援教育、インクルーシブ教育が効果的です。これらの教育は、知的障害のある子どもたちが自分の能力に応じて、最も適切な教育を受けることを目的としています。
社会全体での取り組みとして、知的障害に対する理解を深め、差別や偏見を減少させることが求められています。教育の場では、すべての子どもが自分の可能性を最大限に発揮できるような支援を提供することが大切です。知 的障害は個々に応じた対応を必要とし、教育、就労、社会参加において適切な支援を行うことで、社会で活躍する場が拡がります。
 
 
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、知的能力障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障害の一つです。発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害のことです。すなわち「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と「2. 適応機能の明らかな欠陥」が「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。
 
 
次回からはこれらの課題への支援となるインクルーシブ教育について、より深く考えていきましょう。

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横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。