トップ十人十色の育ち方~どの子にもうれしい子育てのはなし~第1回 言葉ではなく、手が出てしまうAくんのケース

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。修士(教育学)、特別支援教育士、日本ムーブメント教育・療法協会認定常任専門指導員。現在、鶴見大学短期大学部保育科准教授、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科非常勤講師。女優東ちづるさんが理事長を務める一般社団法人Get in touchの理事としても活動。障がいのあるなしにかかわらず、どの子にもうれしいまぜこぜの保育をめざし日々幼稚園や保育所、こども園へ出向き奮闘中。

第1回 言葉ではなく、手が出てしまうAくんのケース

子どもはいろいろ、文字通り十人十色。
成長や発達にもそれぞれ凸凹があり、周囲がどう対応すればよいか困ることも。
だからといって、子どもの「できない」ことばかりに目を向けるのではなく、
今「できている」ことに注目し、ありのままの子どもを受け止め、理解する。
そんな、どの子にもうれしい子育てや保育の姿をお伝えします。

 

新しい場所に行くと、新しい人との出会いがあります。子どもたちも今まで過ごしていた環境と違うところで過ごす機会が増えます。
ある幼稚園の年少クラスにAくんという子がいました。Aくんはつい手が出てしまうことが多く、担任の先生もお母さんもとても心配しています。手が出てしまうことでAくんは𠮟られ続け、
周りの大人は𠮟り続ける状況でした。そのとき、私が先生方にお聞きしたのは、「Aくんが好きなことはありますか」「好きな遊びのときにも手が出ますか」ということ。
このような状況では、なかなかAくんのよいところに目が向かなくなっているからです。

 

多くの子どもは好きなことに夢中になって遊んでいるときは、他の子どもにまで目がいかないものです。対応策としては、Aくんが本当に好きなことに目を向けじっくり遊ぶ時間を確保すること。
ひとりで過ごす時間がなかなか確保できない場合は、手が出やすい場面とは違うAくんの好きなことに誘ってみる方法もあります。どちらにしてもAくんの好きなことを周りの大人が知っていることが重要なポイントです。
Aくんは、決して友だちを傷つけたいと思っているわけでも、周りの大人を困らせたいと思っているわけでもありません。Aくんの場合は、夏休み頃には言葉の発達とともに、友だちに手が出てしまう行動はほとんどなくなりました。

 

さて、言葉とはいったい何でしょうか。簡単に言えば、言葉の主な目的は情報を伝えたいというその人の思いの表現です。他人へ何か伝えたいという思いがなければ、言葉を使う機会はぐんと減ります。
しかし、幼稚園や保育所など家庭と違って大きな社会の場に出たときに、思いがうまく伝えられないことがあります。そのとき、子どもはもどかしくて、思わず嚙みついちゃったり、手が出ちゃったりするのですね。
「言葉があまり出ないこと」と「手が出やすい」ということはつながっているとも考えられます。ぜひ子どもの一つひとつの行動に目を向けていきましょう。


先生より

子どもが困っていることを理解し、関わり続けることが大切

「嚙みつく」、「手が出る」という子どもの行動だけにとらわれてしまうと、目の前にいるその子の本当の気持ちにはたどり着けません。ぜひ、その子が何を伝えたかったのか、「言葉」ではない表現での、コミュニケーションに目を向けてください。「この人はボクが伝えたいことを一生懸命聞いてくれるから大好き」。このような関係が築かれるといいですね。その姿勢が子どもの理解を深め、目の前の子どもをより愛おしく感じることでしょう。ここから本当のコミュニケーションが始まるのです。

Letsmazekoze
me[ミー]春号 2016 Spring Vol.30より転載

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